働かなくてもお金がもらえる――。政府が国民に対して、最低限生活するのに必要なお金を無条件で支給する「ベーシックインカム」制度。オランダが2016年から試験的に導入することが報じられ、話題になっている。
米国のニュースサイト「QUARTZ」によると、オランダで4番目に大きな都市、ユトレヒトで2016年1月から、政府とユトレヒト大学が共同で、ベーシックインカム制度がどのような働きをするか、検証実験をおこなう。対象となるのは、ユトレヒト市民約300人。成人の単身者に900ユーロ(約12万円)、配偶者、子どもがいる家庭には1300ユーロ(約18万円)が月々支払われるという。
このニュースについて、ネットでは「社会保障や社会システムの改革の『切り札』となり得る可能性を秘めている」といった肯定的な意見が見られる。日本でもベーシックインカム制度の導入を検討すべきなのだろうか。社会政策に詳しい土井浩之弁護士に聞いた。
●「生活保護制度や社会保障制度の相当部分が不必要となる」
「『ベーシック・インカム(B・I)』は、国民の最低限度の生活を保障する目的のもと、国民一人一人に、そのために必要な現金などを支給する政策のことです」
土井弁護士はこのように述べる。この制度のメリットはどんな点だろうか。
「生活に必要な金額が支給されることから、生活保護制度や社会保障制度の相当部分が不必要となるでしょう。
そのため、生活保護の恣意的な運用や申請の自己抑制という、現状の制度の問題点が解消されることが期待されます。また、雇用保険、年金などがB・Iに置き換わるので、行政の負担も軽減されることなどがメリットとして指摘されています」
デメリットはないのだろうか。
「勤労意欲が低下するといった点や、財源をどう確保するのかといった点が指摘されています」
●ベーシックインカムの「危険な側面」とは?
日本でも導入すべきなのだろうか。
「私は、B・Iの適正かつ安定した支給が確保されない事態となった場合、深刻な問題が生じるという強い懸念があります。
さきほど述べたように、B・Iによって生活保護などの公的給付や、年金や雇用保険の社会保障制度が縮小された場合、B・Iの支給が立ち行かなくなれば、公的な社会保障制度が機能しない事態となる可能性があるからです」
今後、どういった議論が必要だろうか。
「B・Iは、『最低限度の生活を、国民の権利として国家が実現すべきだ』という原点に立ち返る議論を提起するところに、大きな意義があると思います。
しかし、現状ではこうした懸念があることから、直ちに検討に入ることについては慎重に考える必要があるのではないでしょうか。
また、B・Iが国家の支出を抑制するための制度だと把握されることは、大変危険な側面があると思います。『国民生産の向上と税収の増加につながる』『日本経済の発展にも寄与する』という理解を得たうえで始まることが理想だと考えています」
土井弁護士はこのように述べていた。