隣に住む夫婦の喘ぎ声がうるさくて眠れないーー。弁護士ドットコムに、このような相談が寄せられている。
相談者によると、隣の夫婦は連日“夜の営み”をすることもあり、そのたびに喘ぎ声や「マッサージ機の音」が聞こえるという。
眠れない日々が続き、病気を発症。会社でも遅刻を繰り返すようになり、仕事を辞めざるを得なくなったとのことだ。声や音は録音したという。
相談者は夫婦に慰謝料を請求したいと考えているが、認められるのだろうか。小田紗織弁護士に聞いた。
●「全責任」を取ってもらえる可能性は低い
ーー相談者は隣に住む夫婦に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
近隣住民の出す音や騒音、そして、これが原因の人間関係のトラブルについての相談はよくあります。「音ハラ」というそうです。音を発している本人は他人を不快にさせるという自覚がないケースが多いかと思います。
今回の相談者が隣に住む夫婦に慰謝料を請求する根拠となるのは、民法709条の不法行為責任ということになります。
ただ、他人を不快にすれば何でも不法行為責任というわけではなく、一般社会での生活上、受忍(我慢)すべき限度を超えたと評価されるときに違法性が認められることになります。
ーー受忍限度を超えるかどうかは、どのように判断されるのですか。
「音」「騒音」に関する法的な基準としては、環境基本法や各自治体の条例、騒音基準などがあります。
騒音の基準は、地域や時間帯ごとに定められています。たとえば東京都のある住居地域の基準値は、午前6時から午後10時までは55dB(デジベル)以下、午後10時から午前6時までは45dB(デシベル)以下とされているようです。
相談者は録音した音声を持っているということですが、音の大きさがポイントになってくるので、音量の測定もしておく必要があります。また、単に音の大きさだけではなく、他人の性行為の際に出る声を聞かされるという点も相談者の精神的苦痛を認めてもらえるポイントになってくるでしょう。
ただ、受忍限度を超えたと評価されたとしても、それによって病気を発症したり、仕事を辞めざるを得なかったりしたことに全責任をとってもらえるとは限りません。ここでは相当因果関係が認められるかどうかがポイントとなります。そのため、全責任をとってもらえる可能性は低いかと思います。
●請求が認められた事例は「わずか」
ーー騒音に悩まされる側の請求が認められた事例はあるのでしょうか。
近隣の騒音を理由とする損害賠償請求や騒音差止請求の裁判例はたくさんありますが、原告(被害者)の請求が認められた事例はごくわずかです。
まずは管理会社、大家さん、管理組合などを通じて、音の発生源の住人に注意をしてもらうことを何度か繰り返し、それが難しいようであれば、次に法的手続き(訴訟や調停、場合によっては代理人弁護士を通じた交渉)を検討することになるでしょう。
ただ、注意されても改善しない隣人であれば、法的手続きをおこなったとしても、誠意ある対応は期待できない可能性が高いと考えます。我慢しながら生活し、音の測定や録音、相手方への注意を繰り返す負担よりも、引っ越してしまうほうがよいように思います。