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2020年11月23日 09時46分

「車に飛び込んで死んでしまえっ」DV夫からの離婚請求が認められなかったワケ【判例を読む】

「車に飛び込んで死んでしまえっ」DV夫からの離婚請求が認められなかったワケ【判例を読む】
東京地方裁判所(Ystudio / PIXTA)

暴力・暴言がある配偶者から離婚請求されたーー。弁護士ドットコムに、このような相談が複数寄せられている。

しかし、さまざまな事情から離婚に応じたくないと考えている人もいる。経済的な理由によるものもあれば、配偶者が改心してくれることを期待する人もいるだろう。

過去には、夫の暴力を避けるために別居した妻に対し、暴力をおこなった夫からの離婚請求を棄却した裁判例(東京地裁平成10年(1998年)1月30日判決)がある。

その理由として、裁判所は「婚姻関係はなお修復の可能性がある」と示している。いったい、裁判所はDV夫婦のどこに修復の余地を見出し、夫からの離婚請求を認めなかったのだろうか。

●「妻は自己中」離婚と娘の親権を主張した夫

本裁判例で、夫(原告)は妻(被告)との離婚、そして娘の親権を主張した。

判決文によると、夫は1990年に前妻と離婚し、その約1年後に妻と結婚。1993年に娘を授かった。

画像タイトル 写真はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

その1年後の1994年7月、妻は娘を連れて実家に身を寄せて、別居を開始するようになった。この日から判決日(1998年1月30日)までの約3年半、夫婦は別居状態にあり、妻は娘とともに実家の援助を受けながら生活し、夫は審判(1995年8月)によって命じられた婚姻費用(毎月15万円)を支払っていた。

夫は妻に対して離婚を求める理由として、妻が「バツ2になったらあなたはおしまいでしょう」などと夫の離婚歴を事あるごとに口にして責めさいなむ行為をしたこと、妻が実家に依存し、娘を連れて実家に帰ったまま自宅に戻らないこと、妻が1993年2月以降、性交渉を拒否したことなどを挙げた。

また、夫は「(妻は)自己中心的な人格を持ち、経済的にも自立する力がない」とし、娘の親権を主張した。  

●裁判所が認めた夫の暴言・暴行の数々

ところが、裁判所が認定した事実によれば、夫は「自分の気に入らないことがあると前後の見境なく突然激こうするところ」があり、たびたび妻に対して暴言・暴行をおこなうことがあったという。

たとえば、座っていた妻を床に引きずり倒し、顔面を数回にわたって手の跡が残るほどの力で殴ったり、ビールの入ったコップを投げつけたうえで顔面を殴りつけたりするなどの行為があったとされている。

また、夫婦の間に娘が生まれた後も夫の暴言・暴行は続いており、別居に至るまでには、次のような事実があったとされる。

ーー「包丁を持って来るから、ここで自分で刺して死んでくれ」

妻が家を出る6日ほど前のことだ。夫は突然怒鳴り出し、娘を抱いていた妻を小突いたため、妻は危うく2階から突き落とされそうになった。さらに、「包丁を持って来るから、ここで自分で刺して死んでくれ。おれが刺せば人殺しになるからなっ。」と叫んでキッチンに入って行った。

画像タイトル 写真はイメージです(Pangaea / PIXTA)

危険を感じた妻は近所に住む義妹宅に避難したが、その日の夜に自宅に戻った。すると、夫は娘を抱えたままの妻の髪の毛と右上腕部をつかんで引きずって200m離れた道路沿いまで無理やり連れ行き、「車に飛び込んで死んでしまえっ。」と叫びながら、妻を車道に向かって押し出そうとしたり、顔面を殴りつけるなどの暴行を加えたりした。

その6日後、夫が突然怒り出す出来事があったため、従前のいきさつもあり、妻は夫の態度に恐れをなし、ただちに娘とともに自宅を飛び出した。そして、そのまま別居状態が続いているという。

ーー夫の主張に対して、裁判所は…

夫の主張に対しても裁判所は厳しい態度を示している。まず、妻が夫に対して「バツ2」の発言をしたことについては「事あるごとにしたものではなく、夫婦げんかの際に、たまたま売り言葉に買い言葉のようにして言ったことがある程度にすぎない」とした。

また、妻が性交渉を拒否したことについても「出産前後の母体を保護しようとする気持によるほか、原告から言葉では言えないような性行為を要求されたこともあって、性交渉に消極的な態度になったことに起因していた」とし、その他の夫の主張に対しても「主張を認めるに足りる証拠はない」などとし、認めなかった。   

●「婚姻関係はなお修復の可能性がある」

前述したように、妻は1994年7月に娘とともに家を出て、夫とは判決日(1998年1月30日)まで別居していた。そのため、客観的には婚姻関係が破綻しているようにもみえた。

画像タイトル 写真はイメージです(apple / PIXTA)

婚姻関係が破綻しているならば、夫からの離婚請求も認められるようにも思えるが、裁判所は「いまだ、婚姻を継続し難い重大な事由があると認めることはできない」とし、夫の請求を棄却している。

裁判所は、まず、妻が別居に至った理由が「(娘と自分が)被ることあるべき危難を避けるためのもの」であること、妻が現在も夫との婚姻生活を修復できるのではないかという気持ちを捨てておらず、離婚に応ずる確定的な意思を持つに至っていないことなどの事実を認定した。

そのうえで、婚姻関係が不安定な状態に陥った原因は、これまでの夫の「配偶者の気持を何ら顧慮せず、自己の感情を抑えることをしない独善的な態度にあることが明らか」であるとした。

そして、「(夫が)以後このような態度を真しに反省し、被告との融和を図る積極的な努力をするようになれば、被告との婚姻関係はなお修復の可能性があるものと考えられる」と示し、夫の離婚請求を棄却した。

別居は外形的には婚姻関係の破綻を示す一事情となり得るが、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存否については、婚姻生活における一切の具体的事情が考慮されて判断される。

本判決は、「妻の別居という外形的には夫婦関係の破綻を示す事実の背景を調べ、暴力被害を受けた妻の気持ちを重視したものとして参考になる事例」とされている(判例タイムズ1015号232ページ)。(監修:白谷英恵弁護士)

取材協力弁護士

白谷 英恵弁護士
神奈川県弁護士会所属。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など身近な法律問題を数多く取り扱う。市町村での女性のための相談室の法律相談員、弁護士会での子ども人権相談の相談員、市民相続セミナーなども担当。

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