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音信不通の父が「生活保護」受給、扶養義務があると連絡が来た…どう対応すれば?
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音信不通の父が「生活保護」受給、扶養義務があると連絡が来た…どう対応すれば?

15年間音信不通だった親を扶養する義務はあるのでしょうかーー。そんな質問が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。

相談者によると、相談者の夫(38)宛に福祉センターから「あなたの父が生活保護を受給しており、あなたには扶養義務があります。どれだけ援助ができるか、所得を証明できるものを提出してください」といった内容の書面が届いたという。

夫の両親は8歳の頃に別居し、父からこれまでに援助を受けたことはありませんでした。さらに15年近く会っていないそうですが、こういった場合でも親を扶養する義務はあるのでしょうか。また、勤務先や銀行口座まで調べられてしまうのでしょうか。吉田雄大弁護士に聞きました。

●親を扶養する義務はある?

民法877条1項には確かに子どもの親に対する義務として、扶養義務と呼ばれる義務が法律上存在します。また、生活保護法4条2項は、「民法・・・に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」と規定しています。

「優先して」とあるので、これを一読すると、親族が扶養義務を果たさないと、本人が生活保護を受けることさえできなくなるかのような印象を持たれるかもしれません。しかしこのような解釈は誤りです。

扶養が「保護に優先して行われる」というのは、保護受給者に対して実際に扶養(仕送りなど)が行われた場合は収入認定し、その分だけ保護費を減額するということを意味します。つまり、扶養義務者による扶養は保護の前提条件ではないのです。

この点たとえば、「家族に養ってもらうよう相談してから来て下さい」というのは、生活保護の申請を受け付けない違法な「水際作戦」の典型的手口です。厚生労働省も各地の福祉事務所に対して、「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い、その結果、保護の申請を諦めさせるようなことがあれば、これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい」という通知を繰り返し出していました。

●日本は広範な扶養義務が規定されていて、時代遅れ

双方が成年である場合の親子の扶養義務は、「自分の生活に影響が及んでも仕送りが強制される」とか「引き取って扶養しなければならない」というような強い義務ではなく、学説や実務上でいうところの「生活扶助義務」というものです。これは、社会通念上、それらの者にふさわしいと認められる程度の生活を損なわない限度とされています。

その意味を具体的に説明しましょう。もしあなたの生活に余裕があって、家族の生活にもマイナスの影響を与えないようであれば、無理のない範囲で仕送りをすればよいでしょう。もちろん、現在の生活からはとても援助なんて無理という場合には、仕送りをする必要もありません。また、何らかの理由によって疎遠になり、援助する気持ちに到底なれないという場合であっても、仕送りしなくても全く問題ないのです。

そもそも、民法上の扶養義務の根拠は明らかでないと言われています。とりわけ少子化、核家族化の中で親族の共同体という観念が実態とかけ離れたものとなっているわが国で、これほど広範な扶養義務が法律で規定されているのは時代遅れというほかありません。

●福祉事務所からの所得の照会に対して、回答義務はない

福祉事務所からの所得の照会は、あくまで任意の協力を求めるものに過ぎませんから、応じなければならない法律的な義務はありません。ですから、放置しても責任を問われることはありません。

なお、平成25年に改正された生活保護法24条8項は、扶養義務者への照会手続を強化しています。

しかし、これとて福祉事務所の手続を定めたものに過ぎず、照会への回答義務を課したものではないことは、法文上明らかです。

また、照会書の書式は厚生労働省の示した様式に沿って家族構成や職業、資産、収入、社会保険の加入状況等を記載するものとなっているのが一般的ですが、これについても単なる例として示しているものに過ぎません。なので、市民一般にこのとおり返答しなければならないと義務づけているものでもありませんし、回答欄を全て埋める必要もありません。

●勤務先にまで照会が行くことは考えにくい

ただし、一つ注意が必要な条文があります。

平成25年改正生活保護法29条1項本文は、保護の決定のために必要があると認めるときは、官公署や日本年金機構などに対し、必要な書類の閲覧もしくは資料の提供を求めたり、銀行や信託会社などに報告を求めることができると規定しています。

また、第2号で扶養義務者に関しては、氏名及び住所又は居所、資産及び収入の状況などが、報告を求めることができる事項として掲げられています。

つまり、この条文を読む限りでは、あなたの夫もお義父さんの扶養義務者として、金融機関に預金口座などの「資産」の照会が行われたり、勤務先に給料などの「収入の状況」の照会が行われる可能性がある、ということになります。

回答義務が課されている照会先は公的機関の一部に留まっているとはいえ(民間企業や民間金融機関はこれに含まれません)、極めて強力な権限で、使い方によっては極めて危険なものといえます。

多方面からの批判を浴びたため、政府は平成25年生活保護法改正案の国会審議の中で、改正29条については、福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収(生活保護法77条2項)を行うこととなる可能性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限り行う旨、繰り返し答弁を行っていました。

ですから一応、あなたの夫の勤務先まで照会が行ったり、預金口座まで調べられたりすることは考えにくいですが、念のため注意が必要と言えます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

吉田 雄大
吉田 雄大(よしだ たけひろ)弁護士 あかね法律事務所
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。2018年6月から日弁連貧困問題対策本部事務局長。

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