夫婦の別居に伴い、当時2歳の娘を連れて行かれ、約5年間面会させてもらえなかった埼玉県の男性が、娘の「親権」などをめぐって妻と争っていた離婚裁判で、千葉家裁松戸支部は3月29日、男性を親権者と認める判決を出した。
従来、裁判所は一緒に暮らしている事実を重く見てきた。今回のように、子どもと別居している方の親が親権を得るのは珍しいという。
決め手になったのは、男性が妻側に示した綿密な「共同養育計画案」。妻に年100日ほどの面会や毎日の電話を認めるといった内容で、裁判所は男性を親権者とした方が両親に会える機会が増え、娘の利益になると判断した。
ネットでは、「(子どもを)連れ去ったもの勝ちを許してはいけない」と判決を評価する声がある一方で、現在小学3年生(判決時点では2年生)の娘が約5年、男性に会っていないことから、「娘の気持ちはどうなんだろう」「子どもの意思は関係ないのか」という意見も見られた。
親権をめぐる裁判で、子どもの意思はどう扱われるのだろうか。離婚問題にくわしい高木由美子弁護士に聞いた。
●小学校低学年だと、意思にそぐわない決定も
「家庭裁判所で、親権者や面会交流 などを取り決める上で、子どもの意志は非常に重要視されています。
今回のように離婚裁判で親権が問題になっている場合だと、子どもの年齢が15歳以上の時は法律上、裁判所は子どもの陳述を聞かなければならないとされています。また、年齢が15歳未満の場合でも、10歳前後(小学校高学年くらい)の子どもの意思は、かなり尊重されています。
もちろん、子どもの意思だけで結論が決まるわけではありません。子どもの監護(監督保護)状況や両方の親との関係などが、家庭裁判所の調査官により調査され、総合的に判断されます」
15歳未満の場合、どのくらい判断に影響するのだろうか。
「小学校高学年以上ですと、その陳述はそれまでの双方の親との関係性を如実に反映している場合が多いと言えます。実際の審判や裁判でも、子どもの意思が判断の根拠として大きな部分を占めているという印象です。
一方、小学校低学年の場合、確かに子どもの意思は調査されますが、その陳述は監護親(同居している親)の影響をより強く受けていると考えられます。そのため、子どもの意思は慎重に扱われ、子どもの意思に沿った判断にならないことも、かなりあります」
今回の場合はどうか。
「小学2年生ですと、その意思を重要視すべきか否かは、成長度合いによって異なってきます。とはいえ、子どもがとても嫌がっている場合や、同居中に育児 にほとんど関わっていなかった親を親権者に指定することは、まずないと言ってよいと思います。
今回のケースでは、裁判所の聞き取りの結果、子どもが男性に対してネガティブな感情を持っていないと判断されたのだと思います。また、男性は別居前に育児にある程度積極的に関わっており、子どもとの関係も良好だったようです。 その意味で、男性を親権者と指定することが、必ずしも子どもの意思に反するものではなかったのではないかと推測します」