認可保育園の入園希望者に対し、自治体から結果通知が届く時期になった。相変わらず、ハードルは高いようで、ネットには多くの落選報告が投稿されている。
当落の判断は、ポイント(指数)で決められる。ポイントの量は自治体によって異なるが、夫婦それぞれの労働時間が長い世帯や一人親世帯は、「より保育が必要」としてポイントが加算される傾向にある。
そのため、中には「ペーパー離婚」する夫婦もあるようだ。ベビーシッターサービスを展開する「キッズライン」が、子育て経験のある女性346人を調査したところ、およそ20人がペーパー離婚した人を知っていると回答。経験者も1人いた。【2017年「保活調査レポート」https://kidsline.me/hokatsu】
しかし、生活の実態を変えないまま離婚届を出すことは、離婚を「偽装」しているとも言える。たまに偽装「結婚」で逮捕というニュースを見かけるが、ペーパー離婚にも法的な問題はないのだろうか。杉浦智彦弁護士に聞いた。
●「公正証書原本不実記載罪」になる?
「『保育園落ちた日本死ね』という言葉が、2016年の流行語大賞にノミネートされたように、現在、十分な保育園の数がなく、待機児童が社会問題となっています。
とくに認可保育園は、保育される人数に対する保育士の数や施設の広さなどの基準をクリアしているとともに、保育料も比較的安いことから、そこに入園させるための『保活競争』も相当激しいといえます」
杉浦弁護士は、ペーパー離婚の背景をこのように説明する。では、ペーパー離婚そのものに問題はないのか。
「公務員に対して提出する書類に虚偽の内容の書面を記載すると、『公正証書原本不実記載罪』などに問われる可能性があります。
ただし、実際の婚姻関係を解消する意思がないペーパー離婚であっても、『離婚届を出して戸籍から離れる』という意思さえあれば、法律上は有効です。
そのため、実際の生活実態とは矛盾する離婚届を提出しても、内容に虚偽があるわけではないので、刑罰が成立することはありません」
●虚偽申告のポイント稼ぎは犯罪になる可能性がある
それでは、ポイントを加算するため、勤務実態など提出書類に虚偽の記載をした場合はどうだろうか。
「勤務実態についての虚偽の記載も増えているようです。勤務実態については、多くの自治体では、勤務先が記載した『勤務証明書』の提出が求められます。
もし、勤務先が作成する書類を勝手に書き換えたり、それどころか勝手に作成してしまったりすれば、『有印私文書偽造・変造罪(刑法159条1項・2項)』とその行使罪(同法161条1項)が成立します。もし捜査機関に発覚すれば、取り調べを受けることになるでしょうし、場合によっては逮捕される可能性もあります。
しかし、もし勤務先の人が(良いことではありませんが)好意で虚偽のことを書いてくれたのならば、勤務先の人に対しては社会的な非難はあるでしょうが、刑罰に問われることはありません。ただ、真実が明らかになれば、退園となるリスクもありますので、望ましくはないでしょう。
なお、提出書類に嘘をついて不当にポイントを稼ぎ、子どもを保育園に入園させた場合は、『詐欺利得罪(刑法246条2項)』という犯罪が成立する可能性もゼロではないところですが、実務的には捜査対象になることは考えがたいでしょう」
そもそも、保育環境が改善されれば、そんなに保活で悩まなくても良いのだろうが…。いち早い改善を望みたいところだ。