2019年05月14日 09時30分

東京五輪チケット規約、IOCに有利すぎ? 福井弁護士が「知っておくべきポイント」解説

東京五輪チケット規約、IOCに有利すぎ? 福井弁護士が「知っておくべきポイント」解説
東京2020チケット購入・利用規約(Tokyo 2020公式サイトより/2019年5月13日/弁護士ドットコム撮影)

2020年東京オリンピックの観戦チケット抽選申し込みが、5月9日から公式販売サイトでスタートした。

チケットの申し込みには、ホームページを通じて「TOKYO 2020 ID」に登録する必要があるが、この日アクセスが集中して、一時ログインしづらい状態になった。すでにチケット争奪戦がはじまっているといえるだろう。

ユーザーはまた、チケットの申込みや購入・利用において、「東京2020チケット購入・利用規約」(https://ticket.tokyo2020.org/Home/TicketTerm)に同意することになっている。この規約の中身はどうなっているのだろうか。福井健策弁護士に解説してもらった。

●観客に厳しい条件も多い「チケット購入・利用規約」

楽しみなオリンピック抽選申込み。チケットの申込み・抽選方法を詳細に解説するメディアも多いが、すでに数百万人が同意したはずの「購入・利用規約」の解説となると、まだ少ない。まあこうした規約は、たいてい長文で難解で退屈と三拍子そろうので、無理もないだろう。

しかし、今回は、のべ1000万人がチケット争奪戦を繰り広げ来場する巨大イベントだ。そして誤解のないように言っておくと、これは「購入・利用」双方の規約なので、抽選販売だけでなく、実は来場者と組織委員会の間の、今後430日以上にわたるオリンピックをめぐる全ての根幹の取り決めだ。来場予定ならば、ざっくり10分程度は概観しておいても損はないだろう。

まず一読した印象を書けば、こういった利用規約はたいてい「矛盾・曖昧・重複記載」の嵐になるものだが、今回はそれは少ないと思う。無意味に厳しくしたような表現もあまり目立たない。とはいえ、当たり前だが、諸々の点でIOC(国際オリンピック委員会)側にかなり有利ではある。

以下では、特に誤解が起きそうな、入場者が知っておいても良い事柄をまとめた。良し悪しの評価は、今回はできるだけおこなわない。

●申込み・購入の注意点

まずは申込みだが、買占め防止のため複数IDを作ることは禁止され、重複申込があると(どちらか一方でなく)双方の申込みが無効になるので要注意だ(東京2020チケット購入・利用規約14条)。

当選して割り当てられたチケットは全て払い込んで購入しないといけない(15条1項)。期日までに全額払い込まないと当選は無効となり、そればかりかID停止もありうる(15条3項)。この時点で、来場者の氏名を登録する必要がある。

チケットは1名につき1枚必要で、2歳未満の膝上の子どもだけ、1枚につき1名まで同行可だ(4条3項)。

公式サイト購入分の払込み手段は、現金コンビニ払い(30万円未満のみ)とカード払いがあるが、後者は公式スポンサーであるVISAカード以外は許されない(15条2項)。これはかなり不便な点かもしれない。また、座席の指定は組織委員会の裁量とされ(17条1項)、気になる「複数枚申し込んで当選したら一緒に座れるの?」は、「可能な限り、隣り合わせに努める」ところまで(17条2項)。まあ仕方がなかろうが、仮に離れた席になってもキャンセルはできないので注意を(後述の公式リセールに出品できるだろう)。

●転売の注意点

次いで気になる転売規制だが、公式リセールサイトでの定価転売以外は禁止だ(36条1項)。また、チケットをキャンペーンの景品にするなど、広告・宣伝に使用することも禁じられ、いずれも違反すれば、チケットはただちに無効になる(35条3項)。無断転売が発見された場合、譲渡先に関する情報を組織委員会に開示する義務まである(35条5項)。

さらに、出品されている規約違反チケットを発見した場合、われわれユーザーは通報することが求められている(9条3項)。また、入場時や会場内では本人確認可能とされ、断れば入場できず、入場後も別人と判明すれば退場措置がある(36条2項)。

という厳しさなのだが、1点気になるのは「親族や知人などへの券面額以下での譲渡は自由」とされている点(36条1項)。知人には名義の書き換えが自由なのだ。これは、家族や知人との間で公式リセールサービスを使ってもらうのは非現実的という判断なのだろう。

ただ、当然だが「本当に知人なのか」を主催者側が確認するのは難しかろうから、知人間をかたった高額転売への悪用は気になるところだ。帰趨を見とどけたい。なお、繰り返される高額転売は禁止法で罰則対象となる。詳しくはこちら(https://www.kottolaw.com/column/181211.html)。

●会場内での規制について

次いで、入場時および会場内での規制だ。チケット本人確認があることは前述。大勢をどうスムーズにさばけるかは課題だろう。所持品などセキュリティ検査を拒絶する者は入場できず、入場後も退出を義務づけられる(26条)。持ち込み制限物や禁止行為は今後リストが公表されるが、違反すれば同様(31条・32条)。

競技開始に遅れると入れない場合がある(24条)。1点気を付けたいのは、規約上はいったん外に出ると再入場は禁止されている点だ(27条)。これはコンサート・スポーツイベントなどで見かける規約だが、目的は、通常は転売・共有を防止することだろう。長丁場の競技など、途中で用事のあるケースや疲れて一休みしたい観客のため、どれだけ柔軟に運用できるかがカギだ。

●撮影・録音とその権利について

さて、私が先日つぶやいて大きな反響があった会場内での撮影・録音はどうか(https://twitter.com/fukuikensaku/status/1126415530871611392)。

これは、「撮影禁止区域」以外ではできる。ただし、その写真や映像等の著作権は自動的にIOCに無償譲渡される。IOCやその許可を得た者はこれを将来にわたって自由に利用でき、撮影などした観客は著作者人格権も行使してはならないとされる(33条3項)。

では、観客は自らの写真・映像などを一切使えないかといえば、私的・非営利・非宣伝目的で使うことだけを「許諾」される。ただし、動画・音声の配信・第三者提供は不可なので、たとえば自分たちの応援する姿をYouTubeやインスタグラムのストーリーに上げることはできない(33条4項)。やれば、単なる規約違反ではなく著作権侵害となって、理論上は刑事罰もありうる。現実にどこまで取り締まられるかはまったく不明だが、念頭には置いておきたい。

もう1点、宣伝や賭けのために競技のスコア等を送信することも禁じられているので、これも要注意だ(33条6項)。

他方、観客自身の肖像権は、自由に撮影されることを了承するかたちだ。これは商用目的を含めて、将来にわたって「IOCの発展」などのために自由に利用されうる(33条1項・2項)。規約上はアップでの放送・配信も十分可能だろうから、「顔バレはちょっと」という方は派手めのフェース・ペインティングなど工夫したい。

●違反への対処はどうなっている?

では、以上の規約に違反するとどうなるか。個別に記載された措置があるほか、対象のチケットは無効とされ、退場がありうる。そればかりか、IDが取り消され、すべてのチケットが無効になる可能性もあるので(44条)、注意したい。

●変更・中止と払戻しについて

逆に、予定された競技が変更されたり、遅延・中断したりしても、チケットが払い戻されるケースは限定されている(37条・38条等)。また、こうした変更・遅延や競技中止によってわれわれが損失をこうむっても、組織委員会は責任を負わず(37条1項)、払戻しは券面額が直接の購入者に対してのみおこなわれる(40条)。たとえば、発行手数料や交通費・宿泊費は払い戻し対象にならない。

また、会場内での事故などについて、入場者は自ら、子どもの同伴者、そして所有物の安全を確保する責任がある(23条)。打球やもっと重いもの、選手自身などをよける練習は、怠らないように。

●規約はそもそも有効なのか?

さて、長々書いてきたが、そもそもこうした規約は有効なのだろうか。チケットを申し込むときには、全員がかなりはっきり規約への同意を求められるので、原則としては有効だろう。

なお、同意対象は「購入・利用規約」本文だけでなく、「チケット購入ガイド・チケット申込フォームの規定・個人情報保護方針・会場規則その他組織委員会が定める規則」のすべてとなっている(2条1項・1条20号)。

ただし、消費者契約法その他の法令によって、こうした条項は一方的に購入者の利益を害する内容の場合には無効とされることがある。上記の規約のうち一部のものは、特にその運用次第では、効力を否定されることもありうるだろう。スムーズな運営と、快適で楽しいオリンピック体験のバランスが望まれる。

もう1点、規約は組織委員会が一方的に変更できるとされ、かつ、その変更は「チケット利用者の権利に重大な影響を及ぼす場合にのみ、組織委員会が定める方法で通知される」とある(3条)。これは、恐らくチケットを購入した後で変更された規約や変更を知らされた規約も、われわれに適用されるという意味だろう。よく見られる規定ではあるが、拘束力には限界もありそうだ。

以上はごくざっくりした紹介だった。今回は編集部の要望で急きょの検討だったので細部は省いたし、見落としや誤解もあるだろうから、ご指摘をいただければ幸いだ。気になったが検討が間に合わず、あえて指摘していないところもある。この点は、各規定の詳細とともに別稿で報告したい。

では、みなさん、希望の席が当たりますように!

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授。内閣府知財本部委員ほか。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、「ネットの自由vs.著作権」(光文社新書)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。Twitter:@fukuikensaku

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