友人の買ったばかりの車に嘔吐してしまい、「新車を買って、弁償しろ」と言われていますーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、車内のクリーニングと代車の手配を検討していますが、相手は「1カ月しか乗っていない車だから、新車への買い替えを」と、要求してきたそうです。
相手の要求に応じるべきなのでしょうか。鬼沢健士弁護士に聞きました。
●「グレードアップするような修理は認められない」
ーーこうした物損では一般的にどのように考えることになりますか
「物損では、賠償額に関するルールが決められていますので、それに沿ってご説明します。
嘔吐したとのことですので、嘔吐物がかかった部分のクリーニングなどが必要です。とはいえ、修理費が賠償されるとしても、元の状態よりもグレードアップするような修理は認められません。
相手が、価値の低い車にもかかわらず高額の修理費をかけたとしても、その修理費を賠償する必要はないということです」
●納車から20分後に追突されたベンツ
ーー実際に裁判で争われることはあるのでしょうか
「あります。類似の裁判例では、メルセデス・ベンツ(E-320T)が納車から20分後に追突された事件(東京地判平成12年3月29日)でも、すでに公道で運転利用に供されていたということを理由に、新車への買い換え費用の賠償は認めませんでした。
今回の相談事例でも、友人の新車は納車から1カ月経っており、その間に公道で運転されていたことは明らかです。したがって、新車を要求してきたとしてもそれに応じる義務はありません」
ーー代車費用や慰謝料については、どうでしょうか
「代車費用については、相当な修理期間中分であれば賠償する必要があります。嘔吐物がかかった場所や汚損の程度によって、その期間が決まってきます。
また、新車の持ち主から慰謝料を請求されることも考えられます。裁判所は『被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要』であるとして、物損を理由とする慰謝料の請求を原則として否定しています。
このように、たとえ新車と言えども、新車への買い替え費用を賠償する義務はありません。法的には原則、修理費と代車費用のみです」