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フラダンス振付けに「著作権」、判決読んだら色々画期的。「歌詞と動作の連動」も評価
フラダンス(Ushico / PIXTA)

フラダンス振付けに「著作権」、判決読んだら色々画期的。「歌詞と動作の連動」も評価

フラダンスの振付けについて、著作権を認めた9月21日の大阪地裁判決が反響を呼んでいる。踊りも著作権の対象になりうるが、訴訟になる例は少ないからだ。

近年、著作権が認められたものは、バレエの振付け(東京地裁平成10年11月20日判決)、日本舞踊の振付け(福岡高裁平成14年12月26日判決)くらいしかなく、今後重要な判例になると考えられる。

著作権にくわしい高木啓成弁護士は、そのインパクトを次のように語る。

「小説・マンガなら出版社、音楽ならJASRACなど、著作権や出版権を管理し、法的措置をとれる大規模組織がありますが、振付けにはそのような組織がありません。ですので、振付けに関しては、権利行使がなされにくく、裁判例も多くありませんでした。

また、かつてのバレエや日舞の事件では、著作権が認められることは大きな争点ではありませんでした。今回の裁判は、振付けが詳細に検討された上で著作権が認められており、重要な意味をもちます」

●フラダンスは「基本動作の組み合わせ」? 「創作性」の有無が争点に

原告となったのは、ハワイでフラダンス教室を開くカプ・キニマカ・アルクイーザさん。かつて日本でも指導実績があり、今回被告となった九州ハワイアン協会(熊本市)でも25年以上指導をしていた。

裁判では、契約が切れた2014年11月以降も、協会がアルクイーザさんの創作振付けを使用していたことの是非が争われた。協会は著作物に当たらないので、自由に使えると会員に周知して使っていた。「基本動作の組み合わせにすぎず、創作性はない」というのが協会側の言い分だ。

著作権の有無をめぐる裁判では、この「創作性」「独創性」が大きな争点となる。たとえば、かつて映画『Shall we ダンス?』(1996年)に出てきた社交ダンスの振付けについて、著作権の有無が争われたことがあった。

裁判所は、振付けの動きを1つ1つ分析し、「単純な動き」「ありふれた流れ」などと評価。アレンジが認められても「独創性が認められるほどの顕著な特徴があるとはいえない」などとして、著作権を認めなかった(東京地裁平成24年2月28日判決)

一方、今回は同じように、細かい動きを分析した上で、「全体として見た場合に原告の個性が表現されており、全体としての著作物性を認めるのが相当」などとして、同協会に使用の差し止めと43万円の支払いを命じた。

●裁判所は、歌詞と動作の「対応関係」も考慮

フラダンスの振付けは、(1)歌詞の意味を表現する手の動き(ハンドモーション)と、(2)リズムを刻むステップから構成される。そのうち、ハンドモーションは、一般に特定の言葉に対応する動作が決まっている(1つとは限らない)とされる。

判決ではこの点に着目し、動作そのものの独自性に限らず、歌詞との対応関係も考慮して、作者の個性が表れているかどうかを検討している。

「つまり、『この動き自体はありふれていても、この歌詞にこの動きを当てることには独自性がある』という場合には、作者の個性が表れているとして、著作権を認めているわけです。

この考え方は、振付けだけではなく、たとえば『このギターフレーズはありふれているけど、このメロディにこのギターフレーズを当てるのは独自性がある』など、様々な場面にも当てはまる考え方かもしれません」(高木弁護士)

●判決の具体例…「同音異義語」を利用した部分に独自性を認める

たとえば、ある曲の「He makana in na ke aloha(それは愛の贈り物となるでしょう)」という歌詞に対応する部分を見てみよう。「makana」が「贈り物」、「aloha」が「愛」の意味だ。

この部分の振付けは、「makana」と同じ音を持つハワイの山「マカナ」にかけて、「山」を表す動きと、「愛」を意味する動きが使われている。

判決は、この歌詞の「贈り物(makana)」部分に「山」の表現を当てはめて同じような振付けをした例が見当たらないことから、「作者の個性が表現されている」と評価している。一方、続く「愛」の動作は、ほかにも見られる動きだとして、個性は認めなかった。

裁判所はこのように、個別の動きについて独自性の評価を積み重ねた上で、曲の振付け全体としての著作物性を判断している。

●裁判所での実演、動きの意図を裁判官に解説 有効な手段になり得るか?

こうした振付けの意図は、法廷での実演などを通して、裁判官に伝えられた。アルクイーザさんの代理人・苗村博子弁護士によると、ハワイ・カウアイ島から招いた教え子が踊る中、アルクイーザさんが解説したという。

実演は民事訴訟の「検証」という手続きになり、裁判所が必要性を認めた場合に実施される。実際の裁判では、書面や録画映像を使うのが一般的で、実演は珍しい。

「今回、裁判所は振付けと歌詞との対応を詳細に検討しており、実演が判断に影響した可能性は十分あると思います。書面や録画映像よりも新鮮で、裁判官に直感的に働きかけることができるので、実演は有効だと思います」(高木弁護士)

今後、この判決はどのように影響してくるのか。高木弁護士は次のように語った。

「マンガ・音楽・映画などと異なり、振付けについては、あまり著作権が意識されていなかったように思います。しかし、著作権法には『舞踊の著作物』が著作物の例示として明記明示されているので(著作権法第10条1項3号)、振付けにも著作権が認められることを前提に考えておかなければならないといえます。

今回の判決は、振付師さんに振付けを依頼する場合など、ビジネスの実務での権利処理に影響するのではないかと考えています」

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

高木 啓成
高木 啓成(たかき ひろのり)弁護士 渋谷カケル法律事務所
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n

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