顔面をゴルフクラブで殴られ重症を負った俳優の椿隆之さんが、3月26日放送の「ノンストップ!」(フジテレビ系)で、加害者が民事裁判に応じないことを明かした。椿さんは、2016年11月に路上トラブルで、加害者の男性にゴルフクラブで殴られ、左ほお骨粉砕骨折、鼻骨骨折など全治半年の重症を負った。
刑事裁判では、懲役3年、執行猶予5年の判決が出ている。椿さんは、手術費用や治療費、慰謝料などを求めて民事裁判を行おうとしているが、相手は「今、お金がないから待ってください」と伝えて来たという。番組で、椿さんは「民事裁判を起こすことについて、相手方に話し合いを求めていますが、それにさえ応じない」と事情を話した。
民事裁判で、このように相手が拒否した場合、相手に支払い能力がない場合でも、裁判は起こせるのだろうか。また治療費は回収できるのか。民事訴訟に詳しい中西祐一弁護士に聞いた。
●「相手が裁判を拒否しても提訴できる」
「民事裁判は、相手方が裁判を拒否している場合でも、起こすことができます。また、相手方に支払能力がない場合でも、裁判を起こすことはできます。
裁判所は、相手方に支払能力があるかないかにかかわらず、法的に支払う義務があれば、判決で支払を命じることになっています」
相手が出廷しなくても、裁判は進められるのか。
「裁判を起こしたにもかかわらず、相手方が出廷しない場合は、原則として、原告側の請求を全面的に認める判決が言い渡されます。これを『欠席判決』と呼んでいます」
●「強制執行手続によって、相手方の財産を差押える」
現実問題として、裁判に出廷せず、支払能力もないような相手が、賠償金を支払ってくれる可能性は限りなく低そうだ。そのような場合、何か対策はないのか。
「私の経験上でも、裁判にすら欠席する相手は、敗訴しても、自発的にお金を払ってくれる可能性は極めて低いですね。
そのような場合は、強制執行手続によって相手方の財産を差押えなくてはなりません。不動産や預金・給料を差し押さえることが多いと思われます。
ただ、差し押さえる財産がどこにあるかは、基本的には自力で探さなければならないとされているため、財産がないとか、預金口座のある金融機関・勤務先が分からないなどの事情で差押えができない場合も少なくありません」
●強制執行制度の強化、国の補助金など制度を充実させるべき
椿さんは、番組で「費用ばかりがかさんで、裁判を続けられない」とも指摘している。
「『相手が出廷しない場合、費用ばかりかさんで、裁判を続けられない』という発言は、民事裁判は欠席判決ですぐに終わるけれども、強制執行の目処が立たない限り、結局お金を回収できず、裁判費用が無駄になってしまう、という意味であろうと思われます。
現実に、椿さんと同じような理由で裁判を諦めざるを得ない方々は少なくありません。強制執行制度の強化や、民間保険・犯罪被害者に対する国の給付金などの制度で補っていく必要があると思われます」