兵庫県伊丹市で6月9日に起きた交通事故がネットで話題になっている。自転車に乗った女子高生が車にはねられたというものだが、ドライバーが車を降りて声かけまでしているのに「ひき逃げ犯」として捜査されているのだ。
読売テレビによると、女子高生が西から交差点に進入したところ、北から走ってきた乗用車に出合い頭にはねられたという。女子高生は、車を降りてきた中年女性に対し、「大丈夫」と返答。これを受けて、ドライバーが現場を立ち去ったところ、警察から「ひき逃げ犯」として、追われることになってしまった。なお、女子高生は帰宅後、肩に痛みを感じて病院へ搬送された。鎖骨が折れていたとのことだ。
今回、被害者を無視して走り去ったわけではないのに、どうしてひき逃げになってしまうのか。ドライバーはどうすれば良かったのか。星野学弁護士に聞いた。
●珍しくないパターン「重ければ懲役刑になることも…」
実はこのパターンは少なくありません。「ひき逃げ」というと、何か積極的に事故現場から逃走する様子をイメージしてしまいます。しかしながら、交通事故を起こしたドライバーには、負傷者を救護する義務(救護義務)とともに、交通事故の発生を警察官らに報告する義務(報告義務)が科されています(道路交通法72条)。
それらの義務を果たさず事故現場から立ち去っただけで、救護義務違反・報告義務違反として刑事処罰の対象となってしまうのです。ケガが軽ければ罰金程度でしょうが、重ければ懲役刑もあり得ます。
道路交通法は、救護義務・報告義務を科す場合の「交通事故」について、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」と定めています(同法67条2項)。しかし、被害の程度は問題にされません。したがって、被害者がまったくケガをしていないことが明らかなような場合でもなければ、たとえケガが軽微だとしても、被害者が自力で歩行できたとしても、運転者は救護義務・報告義務を果たさなければなりません。
●交通事故のケガ、症状が遅れて出ることも…「警察官の指示に従って」
本件では、被害者が「大丈夫」と答えたそうです。しかし、運転者はケガの有無についてきちんと確認をしていなかったようです。また、実際に鎖骨が折れていたのですから、事故の程度も被害者がまったくケガをする可能性のない程度というわけではなかったと考えられます。
そうすると、運転者としては、たとえ被害者が「大丈夫」と答えたとしても、その言葉を鵜呑みにするのではなく、きちんと車を降りて被害者にケガがないかを確認する必要があります。
また、交通事故のケガは事故発生直後には症状が出なくてもその後に症状が出ることがありますから、きちんと警察に事故発生の報告をして、到着した警察官の指示に従わなくてはなりません。