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「ヤクザは絶滅危惧種だ」元山口組顧問弁護士が語る「暴力団」を取り巻く環境(下)
元弁護士で作家の山之内幸夫さん

「ヤクザは絶滅危惧種だ」元山口組顧問弁護士が語る「暴力団」を取り巻く環境(下)

日本最大の指定暴力団「山口組」が3つに分裂するなど、ヤクザを取り巻く状況の変化が慌ただしい。ことに世間の風当たりは強く、そのシノギ(収入)も年々厳しくなっているといわれる。さらに、共謀罪(組織犯罪処罰法)も成立した。はたして、ヤクザは生き残れるのか。長年にわたって山口組の顧問弁護士をつとめた元弁護士で、作家の山之内幸夫さんに聞いた。

●「ヤクザは特殊詐欺をあまりやっていない」

――なぜ、ヤクザのシノギが厳しくなったのか?

賭博、売春、薬物が、ヤクザの基本的なシノギです。それに加えて、民事介入暴力が、非常に肥大化していました。債権取り立て、倒産整理、闇金・高金利などの収入源がありました。一番大きかったのは、不動産バブルのときの地上げですね。あのころが一番、金が流れました。

それらが国の法律によって、できなくなっていくんですよ。たとえば、倒産整理、総会屋、示談屋、競売屋はほとんどなくなった。総会屋もほぼいない。交通事故の示談もない。倒産整理もなくなりました。ただ、建設利権、土木・建設に絡む収入源は最近まで残っていました。

――建設利権とは何でしょうか?

談合を仕切ったり、下請けを取りに行く仕事です。人夫の供給や砂利、産廃、いろんな下請け仕事をゼネコンから地元に振り分けてもらう仕事があるんです。暴力団排除条例によって、そこからも締め出されています。つまり、民事介入暴力のシノギがどんどん小さくなっていっているんです。

また、伝統的な賭博、売春、ノミ行為、覚醒剤などのシノギもほとんどダメです。相対的にマシなのは覚醒剤くらいでしょう。闇カジノ、オンラインカジノはまだ伸びていますが、昔ながらの鉄火場タイプは全滅、ノミ行為もほぼダメ。売春も捕まってしまいます。伝統的な資金源も極めて細っています。

――振り込め詐欺は?

「特殊詐欺」というんですけど、ヤクザは実際はあんまりやってないんですよ。半グレとか、大学出てるカタギがやってるんです。ヤクザは引き出し係のほうに使われていますよ。自分たちで企画していないんです。ヤクザでない連中がやっているんですね。ヤクザは窃盗などで食いつないでいて、ボロボロ崩れていっていますよ。組員もものすごい減っていっています。

僕はむしろ、ヤクザを「絶滅危惧種」としての保護を考えないといけないと思いますよ。ヤクザというのは、江戸時代から続く一つの文化ですから、ただ潰せばいいというものではないと思いますけどね。

――なぜ潰すべきではないのでしょうか?

本当に行き場のない連中を抱え込んで食わせている面があるんでね。ヤクザはまともに働けない、協調性のない人たちが多いわけです。家が貧しかったり、親がいなかったり、差別などの事情があるんだけども。どこにも行き場のない連中を抱えて、人として生きていく道を与える役割を果たしているんですよ。それなりの意義があるんです。

世の中に邪な需要があるかぎり、その需要にサービスを提供しているんです。売春もないよりはあったほうがいい。賭博もないよりはあったほうがいい。豊かに発展した国の「ゆとり」だと思います。

●「ヤクザ全体の状況が悪い」

――なぜヤクザになるのでしょうか?

家庭の愛情の欠落ですよ。十分な愛情を与えられていない人が多いです。愛情深いシツケが行き届いていれば、ヤクザには絶対になれないですよ。ヤクザの世界は「人を押しのけようが何しようが自分がよければいい」、あるいは「金がすべてだ」という価値観をもった人間じゃないとやっていけないんですよ。

二つ目は、ものすごい貧乏だったこと。三つ目は差別ですね。そういう背景があっても、おとなしい子はヤクザにならないけど、納得できない連中はヤクザになっていく可能性があります。根性と体一つで、金も権力も握ることができるのはヤクザの世界だけですから。そこに夢を見る可能性もありますよね。

――ヤクザになる人が減っている中で、何を目指しているのでしょうか?

いい車乗って、いい女連れて、酒飲んで、札束キリまくって、贅沢な暮らしができる・・・というのは一つの夢ですわな。もうそんなことできませんけど。ヤクザは懲役と隣合わせですが、その代わりいい目に合うことはありうるということですな。

――警察は、暴力団を絶滅させようとしているのでしょうか?

どうなんでしょうかね。そうは思わないけど。本当に絶滅させようとしたら、組織犯罪集団を組織しただけで罪になる「結社罪」をつくったら一発なんですよ。海外では採用されていますが、日本は採用しないんですよ。全部解散しますよ。だから、暴力団がなくなったらいいとは思っていないんでしょうね。

――それはなぜでしょうか?

暴力団が表に出てるほうが検挙しやすいから、管理しやすいからです。完全な秘密結社になると、管理できません。表に出ているほうが管理できるんですよ。暴力団の手元に犯罪が集まっていれば、犯罪のほとんどを管理することと一緒ですから。泳がせながら、世間を騒がせた事件だけを検挙していくというね。

――暴力団が減っている状況は、犯罪が地下に潜っていることではないでしょうか?

どうでしょうね。特殊詐欺などの犯罪収益が、ヤクザ以外の連中に流れています。ヤクザは生活が苦しいですね。かわいそうなくらいですよ。山口組が分裂して、さらに分裂するのは、ヤクザ全体の状況が悪いからなんですよ。みんな食っていけない。だから、不平不満が出て、分裂してしまうんですよ。

●「共謀罪をうまく使える場面は少ない」

――「共謀罪」は、組織的犯罪集団を取り締まれるのでしょうか?

アメリカみたいに、秘密盗聴とおとり捜査を組み合わせたら、使い道があると思いますよ。しかし、今の暴力団を退治するために必要な法律かといわれると全然必要ない。山口組は、アメリカの共謀罪(コンスピラシー)で裁判にかけられたケースがあります。

少なくとも秘密盗聴はいるでしょうね。しかし、日本は拒絶反応が強すぎます。令状をとって盗聴ができるようになっているけど、ほとんど運用されていません。実際は、盗聴していても、警察は絶対にそのことは言わない。盗聴しておいて、のこのこ出てきたら職務質問とかで捕まえて、盗聴のことを隠していますよ。

共謀罪は、少なくとも秘密盗聴がセットになっていないと使い道ないです。ところが、日本は拒否反応が強いので、簡単には裁判所は令状を出さないし、仮に出しても、「秘密盗聴したうえで捕まえたんか」ということになったら、もめるでしょうね。おとり捜査も日本人になじまない。共謀罪をうまく使える場面は少ないんじゃないでしょうか。

本質的な問題としては、刑法の概念に異質なものを持ち込みますよね。実行行為に着手した段階で犯罪になるのが、「考えただけ」「話しただけ」という漠然としたものを犯罪にしてしまう。そんな異質なものを取り込む必要はないと思いますけど。

(上)「一つになるための再編のはじまり」元山口組顧問弁護士が語る「三つ巴」の意味

(弁護士ドットコムニュース)

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