読売新聞のウェブサイトに掲載されたコラム記事が、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に、全文コピペで転載されたことをめぐり、ネット上である騒動が起きた。
コラム記事は、この夏に大ヒットした映画『シン・ゴジラ』について、アニメ評論家の藤津亮太さんが執筆したもの。この記事が、2ちゃんねるに全文コピペされたことから、藤津さんが、著作権侵害だとして声をあげた。
一方、2ちゃんねるに全文転載したとされる人物はツイッター上で、(1)ウェブに公開された情報は利用者全員の共有資産、(2)非公開の必要があるならば、会員登録が必要な記事にできる、(3)著作権侵害の本旨は、複製によって著作権者が不利益を被った場合に限る、などと反論した。
今回のようなコピペは、2ちゃんねるだけではなく、ウェブ上でよく見られることではあるが、必ずしも法的に許された行為であるとはかぎらない。コピペの注意点について、著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。
●ネット上で公開されていても、他人が自由に使えないのが原則
「『ウェブ上に公開された情報は利用者全員の共有資産』・・・だとしたら、利用者にとって実に都合のいい話ですが、残念ながら、著作権法にこのような主張を裏付ける規定はありません。
著作物をウェブ上で公開する際、著作者が『誰でも使っていいですよ。コピペも大歓迎!』と包括的に許可することは可能です。実際に、クリエイティブ・コモンズという団体が提供している『CCライセンス』は、作品を公開する作者が『この条件を守れば、私の作品を自由に使ってかまいません』という意思表示をするためのツールとして活用されています。
しかし、裏を返せば、そのような意思表示がないかぎり、ネット上で公開された著作物であっても、他人が自由に使うことはできないのが原則です。仮に、著作権者に経済的損害がまったく発生していなくても、だからといって著作権侵害が成立しないことになりません」
●コピペは「引用」にあたるか?
「日本の著作権法には、米国著作権法のフェアユース条項のような包括的な権利制限規定(一定の例外的な場合に著作権を制限して、著作権者に許諾を得ることなく利用できることを定める規定)はありませんから、『ネット記事のコピペ』が正々堂々と認められるためには、いずれかの権利制限規定の要件に該当しなければなりません。
今回のケースのような場合、使える可能性が高い規定は引用(著作権法32条1項)です。
著作権法上の『引用』に該当するためには、(1)公表された著作物を使用していること、(2)『公正な慣行』に合致すること、(3)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内でおこなわれること、が必要とされています。 そのほか、過去の裁判例では、(4)主従性(自己の著作物が『主』であり、引用された著作物が『従』であること)や、(5)明瞭区分性(引用部分が明瞭に区別されていること)が必要とされてきました。また、引用の必要がない場合には引用は許されない、として(6 )引用の必然性も要件であると言われてきました。
知財高裁は、美術鑑定書事件(平成22年10月13日判決)において、『引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要』と述べたうえで、引用の成否を判断するにあたり(a)利用の目的、(b)方法、(c)態様、(d)利用される著作物の種類や性質、(e)利用される著作物の著作権者におよぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない、と判示しました。
この判断手法は、今後のスタンダードになっていく可能性が高いと思われます」
●価値ある著作物がネット上で公開されなくなる可能性も
「また、記事であれば、時事問題の論説の転載等(著作権法39条)の規定が使える場合もあるでしょう。
しかし、新聞・雑誌に掲載された時事問題に関する論説は、利用を禁ずる旨の表示がないかぎり、ほかの新聞、雑誌に掲載したり、放送したりすることができるという規定であり、利用できる場面が限定されていて、しかも『転載禁止』と記載されているときには、転載は認められないので注意が必要です。
なお、引用の場合にかぎらず、権利制限規定にもとづいて著作物を利用する場合、原則として出所表示が必要です(同法48条)。しかし、まずは権利制限規定の適用があることが前提であり、出典さえ書けば利用できるというものではありません。
『ネットに公開したら共有財産』という見解は、一見すると利用者にとって便利でメリットばかりのように思えます。しかし、多くの利用者がこの考えにもとづいてネット上の著作物を好き勝手に使いはじめると、価値ある著作物がネット上で公開されなくなっていく可能性もあります。
インターネットという豊饒な情報の海を維持するために、どのようなルールが必要なのか、長期的・多角的な視点で考えていく必要があるのではないでしょうか」