グーグルの検索で特定の語句を入力すると、自動的にそれとセットになる別の語句を予想して表示する「サジェスト機能」。 たとえば、「AKB48」と入力すると、「総選挙」や「新曲」といった関連語句が自動的に表示される、”ちょっとお節介な”機能だ。この表示が人の名誉を傷つけるかが争点となった裁判で、グーグルが敗訴した。
問題となったケースでは、原告男性の名前を検索欄に入力すると犯罪行為を連想させる単語が同時に表示され、クリックすると、男性を中傷する事実無根のサイトに飛ぶようになっていたという。男性はそれらを理由に職を失ったこともあったとのことで、グーグルの表示により名誉を毀損されたと主張していた。それに対して、東京地裁は4月15日、グーグルに表示差し止めと慰謝料30万円などの支払いを命じる判決を出した。
サジェスト機能を巡っては、これまでも企業や個人名と並んで中傷語句が表示されることが問題視されていたが、同機能の表示差し止め判決は国内では初めてだという。グーグル側は「判決の内容を精査し、今後の対応を検討します」とコメントしたが、今後のネットサービスに与える影響は小さくないと考えられる。今回の判決の意義をどうとらえるべきか。インターネットに詳しい川添圭弁護士に聞いた。
●「サジェスト汚染」の拡大は防ぐべきだ
川添弁護士は、今回のようなケースは各地で問題となっていると指摘する。
「サジェスト機能を意図的に悪用し、特定人物の社会的評価を落とすことは、現実的に可能だと指摘されています。こういった行為は、いわゆる『サジェスト汚染』として、海外でも問題視されています。フランスの裁判所でも2010年秋、本件と似た事案で、名誉棄損に基づく損害賠償を認める判決が出ています。
マスコミ報道などによれば、今回の事件では、原告男性の名前を検索窓に入れると、グーグルが、男性と全く関係が無い事件関連のキーワードをサジェストしていました。また、それに従って検索すると、原告男性の関与を示唆する誹謗中傷サイトにたどり着くという状況でした。
それによって、原告男性は内定取消しなどの現実的な被害を受けていました。判決の裏側には、そんな事情があったようです」
自動表示の「サジェスト」に、そこまでの力があるのだろうか。川添弁護士は次のように説明する。
「インターネットの検索サイトはいまや、迅速かつ的確な情報収集のために欠かせない存在であり、検索結果が一定の社会的影響を与えることも少なくありません。
今回の東京地裁判決は『違法な投稿記事のコピーを容易に閲覧しやすい状況を作り出している』として、サジェスト機能による名誉毀損の成立を認め、表示差止めに加えて損害賠償をも命じました。これは、検索サイトの重要性と社会的責任を問う意味で、大きな意義があると言えます」
●「サジェスト汚染」を防ぐための対策は?
今では検索サイトは、人の社会的評価を決定づけるという側面すら持つようになったということだ。そうであれば、検索結果の表示に対して、サイト運営者が一定の責任を負うのは当然なのかもしれない。
川添弁護士はこうした「サジェスト汚染」の拡大防止について、「あくまで私見」と断りつつも、「少なくとも、反社会的な語句や個人の社会的評価を落とす可能性のある語句はサジェスト機能の候補として表示させないなどの技術的対策を講じるべきではないかと考えます」と指摘した。
なお川添弁護士は、原告が芸能人や政治家などの著名人だった場合や、サジェスト機能が表示したキーワードによる検索で結果的に誹謗中傷サイトなどがヒットしなかった場合などについては、「今後の検討が必要になる」と話している。