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「声がそっくり」でも違法にならない?津田健次郎さん訴訟で浮かび上がった壁、「声優の権利」を守る難しさ
津田健次郎さん。公式サイトから(https://tsudaken.jp/)

「声がそっくり」でも違法にならない?津田健次郎さん訴訟で浮かび上がった壁、「声優の権利」を守る難しさ

人気声優・津田健次郎さんの声に似た音声を使った動画をめぐる訴訟で、東京地裁は9月30日、津田さん側の請求を棄却した一方、「声」もパブリシティ権の保護対象になるとの判断を示した。原告代理人が「初めて」と評価した判決だ。

声優の権利を守る「大きな一歩」──。しかし、芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士は「多くの課題が残っている」と指摘する。

そもそも、誰の声が保護されるのか。どこまで似ていれば権利侵害になるのか。今回の判決では、こうした具体的な基準までは示されなかった。

では、法律で明確なルールを定めればよいのだろうか。実は、それも簡単ではないという。

生成AIによって「そっくりな声」を作り出せる時代に、声優はどうやって自分の権利を守ればよいのか。今回の判決の意義と残された課題について、河西弁護士に解説してもらった。

●「声も保護対象」は大きな一歩、ただし課題も

今回の判決は、声優の権利を守る大きな一歩ですが、多くの課題が残されています。

たとえば、誰の声にパブリシティ権が認められるのか、どのような使い方をすれば権利侵害になるのか、具体的な基準は示されていません。

そもそも、パブリシティ権とは、著名人の氏名や肖像などが持つ、商品やサービスに顧客を引きつける力(顧客吸引力)を保護する権利です。法律に明文の規定があるわけではなく、裁判例によって認められてきました。

そして、権利侵害にあたるかどうかは、単に「誰の肖像や声なのか」ではなく、「どのように利用されたのか」も考慮して判断されます。

たとえば、タレントの写真を無断で使ったグッズを販売したり、広告用のホームページにタレントの写真を無断で掲載したりする行為は、パブリシティ権侵害にあたる可能性があります。

つまり、著名人の肖像や声を無断で使えば、直ちにパブリシティ権侵害になるわけではないのです。

●なぜ法律で「誰の声を守るか」決めるのは難しいのか

「誰にパブリシティ権が認められるか、法律で決めればいいのでは?」と考える人もいるかもしれません。

しかし、これも簡単ではありません。

パブリシティ権は、人の氏名や肖像など、その人自身に結びつくものを保護する権利です。

そのため、法律で「この人の肖像には権利があるが、あの人の肖像にはない」と線引きすることは、人の生まれ持った人格によって区別することにもつながりかねません。

パブリシティ権は、人の属性や人格と密接に結びついているため、法律で一律の基準を設けることが難しいという事情があります。

●「似ているだけでは違法にならない」可能性も

では、今後、生成AIで声を模倣された声優が、SNS運営会社に動画の削除や損害賠償を求めた場合、どうなるのでしょうか。

SNS側からは、たとえば次のような反論が想定されます。

(1)そもそも声はパブリシティ権の保護対象ではない
(2)原告の声には、パブリシティ権で保護されるほどの顧客吸引力がない
(3)動画で使われた声は、原告本人の声とあまり似ていない

今回の判決によって、少なくとも(1)の反論は認められにくくなったと考えられますが、(2)と(3)については、依然として明確な基準がありません。

たとえば、声優事務所に所属していることや、SNSのフォロワー数が多いことなどは、顧客吸引力を判断する一つの目安になるでしょう。ただ、それだけで権利が認められるとは限りません。

さらに難しいのが、声の類似性です。

顔写真などの肖像と比べても、声がどの程度似ているかを客観的に判断することは容易ではありません。今回の判決でも、その線引きは示されませんでした。

また、仮に声の類似性が認められても、どのような目的や態様で利用されたかによって、パブリシティ権侵害が成立するかどうかの結論は変わってきます。

●声優個人の訴訟が「業界全体の利益」に

今回、津田さん側が求めたのは動画の削除であり、損害賠償は請求していません。つまり、訴訟によって津田さん自身が直接的な金銭的利益を得ようとしたわけではありません。

それでも訴訟を起こし、「声もパブリシティ権の対象になる」という司法判断が示されたことには、声優業界全体にとって大きな意義があります。

本来、裁判は当事者間の紛争を解決するための制度です。しかし、今回のような裁判例が積み重なれば、声の無断利用について、どのような場合に権利侵害が認められるのか、判断基準が少しずつ明確になっていくことが期待できます。

そうした意味では、個人の訴訟であっても、業界全体の利益につながる公益的な側面があります。

今後は、声優個人だけに負担を負わせるのではなく、業界全体でこうした取り組みをフォローしていくことも、現実的な解決策の一つではないでしょうか。

●SNSは変わるのか?「抜本的な変化は期待できない」

今回の判決によって、SNS運営会社の対応は変わるのでしょうか。

情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)では、インターネット上の権利侵害情報について、一定の要件を満たした場合、プラットフォーム事業者が損害賠償義務を負うことがあります。

今回、声もパブリシティ権の保護対象になるとの判断が示されたことで、SNS側が声の無断利用に関する削除申請などに、これまでよりも前向きに対応する可能性はあります。

ただし、今回の判決だけで抜本的な変化が起きるとは考えにくいでしょう。

海外では、プラットフォーム事業者に対する規制を強化する動きが進んでいます。たとえばEUでは、デジタルサービス法により、大規模なオンラインプラットフォームなどに厳しい義務を課し、違反した場合には巨額の制裁金を課す仕組みがあります。

一方、日本で同様の規制を強化するには、憲法で保障された「表現の自由」との関係を慎重に検討する必要があります。

声優の権利を守ることは重要ですが、声が似ているというだけで動画が削除されるようになれば、正当な表現活動まで制限されるおそれがあります。

生成AIの進化によって、これまで想定されていなかった「権利侵害」が生じる一方、新たな表現の可能性も広がっています。

声優の権利をどう守り、表現の自由とどう両立させるのか。今回の判決は、その難しい課題を改めて浮き彫りにしたといえます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
レイ法律事務所共同代表。芸能・エンターテインメント・メディア法務・危機管理対応の統括責任者。サンデージャポン(TBS系列)、めざましテレビ(フジテレビ系列)、news zero(日本テレビ系列)等に出演。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。刑事弁護の受任件数は1000件以上。

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