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Googleマップは「21世紀に現れた無法地帯」 医師らが訴える「悪質コメント放置」の実態
グーグルマップの悪質なクチコミを放置されたとして医師らがグーグルに損害賠償を求めて裁判を起こす予定だ(写真はイメージ、yu_photo / PIXTA)

Googleマップは「21世紀に現れた無法地帯」 医師らが訴える「悪質コメント放置」の実態

インターネットで世界中の地図を無料で見られる「グーグルマップ」。そこに書き込まれる悪質なクチコミを放置しているとして、医療機関に勤める医師らが近く、運営するグーグルに対して損害賠償を求める裁判を起こす。

グーグルマップでは、地形や道路だけでなく、飲食店やホテル、観光地の住所や営業時間などの情報をクリック一つで入手でき、利用者が感想を書き込んだり、星マークによる5段階の評価を付けたりもできる。一方、誹謗中傷の温床になっていると指摘する声もある。

その大きすぎる影響力が世界で危惧されつつある巨大プラットフォーマーに対し、日本の一般市民が連帯して訴える今回の動きがどれだけ広がりを見せるか注目される。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

画像タイトル グーグルマップでは地図上の病院や飲食店の評価やクチコミが表示される

●「当事者になって初めて気づいた」

原告となる予定の東京都内の医師は「最初は自分も便利だと思って使っていたが、当事者になってその問題に気づいた」と振り返る。

この医師は数年前に開業した際、隣のビルに入る駐車場の利用券を間違って自分の病院の受け付けに持ってくる人が散見されることを不思議に思っていた。

グーグルマップを見て謎が解けた。地図上で自分の病院が隣のビルに入っているものとして表示されていたのだ。

画像タイトル グーグルマップに表示されるクチコミの問題を語る医師(2024年3月、東京都内で、弁護士ドットコムニュース撮影)

知らない人が勝手に誤った住所をグーグルマップに書き込んでいたと分かり、グーグルに修正を依頼したが、1年ほど無視されたという。

●不適切の基準が不明 「泣き寝入りするしか…」 

クチコミの仕組みについて、グーグルは「Google Japan Blog」というページで以下のように説明している。

<クチコミが投稿されると、クチコミがポリシーに違反していないことを確認するために、直ちに管理システムに送られます。Google の管理システムが建物への不正侵入を防ぐ警備員のようであるのに対し、Google のチームは、不適切なコンテンツが Google に投稿されるのを防いでいます。>
<Google のオペレーターチームは、24 時間体制でフラグが立てられたコンテンツを確認しています。ポリシーに違反するクチコミが見つかった場合は Google から削除し、場合によってはユーザーアカウントの停止や法的措置などの対応を取ります。>

しかし、冒頭の医師によると、実際にどのような基準で違反と判断されているかは利用者には分からない。

さらに、問い合わせ先がどこにあるのか分かりにくく、問題がありそうな投稿を報告しても放置されることが続いているという。

医師は「グーグルにはちゃんと対応する窓口がなく、ありえない。訴えること自体が難しく、書かれた方は泣き寝入りするしかない」と批判する。

●「ゴミ」「門前払いされた」荒れる書き込み 脅されるケースも

こうした状況について、この医師が2023年春、ツイッターで問題提起したところ、全国各地でクリニックを経営する医師などから賛同する声が寄せられた。

「ゴミ」「老害」「門前払いされた」「ゴキブリがいた」「手術が失敗した」

画像タイトル ある病院について書き込まれたグーグルマップのクチコミ

グーグルマップでは、その店で働くスタッフへの侮辱や真偽を確認できない書き込みが放置されている以外にも、「金を払わないと悪いクチコミを書く」と脅されるケースや、同業者が他社に低評価をつけるケースが発生しているという。

また、医師には守秘義務があり患者の特定につながりうる情報を公にできないため、虚偽の書き込みでも反論することが難しい事情もある。

「21世紀に現れた無法地帯です」

この医師はグーグルマップの現状をそう表現する。

●2次被害も懸念 クチコミ削除の業者から勧誘

2次的な被害を懸念する声もある。

原告となる医師が働く病院には以前、グーグルマップのクチコミ対策に取り組むという会社から資料が送られてきたことがある。

そこには病院のクチコミを印刷した紙が同封されており、「批判的なクチコミは採用活動などに悪影響を及ぼす」「クチコミの非表示化対策をおすすめする」などと有料サービスを紹介してきたという。

「クチコミを消せるのはグーグルか書き込んだ本人だけなので、第三者が消せるわけがなく、詐欺であることが明らかです」とその医師は指摘する。

●裁判に50人以上が参加予定 代理人「消費者にとって今の仕組みが良いのか?」 

ネット上にも「表現の自由」がある。この医師は「店の欠点を知ってから行く方が消費者として安心感があることは私も分かる。けれど、他人の人権を侵害してまで表現の自由が認められるべきではないのではないでしょうか。あんなに簡単に悪口を書く場を与えてはいけないと思います。グーグルは人の不幸で金儲けをしているように見えます」と語る。

画像タイトル 提訴を予定している裁判の論点を説明する中澤佑一弁護士(3月8日、埼玉県戸田市で、弁護士ドットコムニュース撮影)

代理人として提訴に向けた準備を進めている中澤佑一弁護士によると、現在50人を超える医師や歯科医師が原告に加わる意向を示しているという。

中澤弁護士は、クチコミの多くを明確に違法だと判断することが難しいことなどから厳しい裁判になると覚悟している。

その上で、「医療は消費者にとって望ましい行動をすることが必ずしも正解ではない業種。グーグルマップのクチコミの仕組みが消費者にとって良いのか。裁判を通じてこの問題への意識の共有が広がってほしい」と話している。

●SNSで賛同者募り 「改善されるまで続ける」

提訴を予定している医師は去年、「Googleクチコミ被害者の会」を立ち上げ、X(旧ツイッター)やホームページで裁判をともに闘う仲間や支援者を募っている。

「いろいろな考えがあると思うが、みんなが安心して働き、暮らせるような環境になってほしい。長い闘いになると思うが、改善されるまで続けるつもりです」

●グーグルに質問するも回答なく

弁護士ドットコムニュースは3月12日、グーグルに対して、問題のあるクチコミが放置されていることに関する対応策などを尋ねる質問をメールで送ったが、3月28日時点で回答はない。

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