恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラーの木村花さんが、SNSで誹謗中傷を受け2020年5月に亡くなったことをめぐり、母響子さんが、フジテレビと制作会社に対して、慰謝料など約1億3900万円(提訴後に金額変更)の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が7月12日、東京地裁であった。
原告側は、被告側には花さんに対する安全配慮義務を尽くさなかった法的責任があると主張し、被告側は請求棄却を求めた。響子さんが意見陳述をおこない、「被告らが真摯に問題と向き合い、過ちを認め改善することが不可欠」と提訴した理由をあらためて述べた。
響子さんは会見で「愛する人を理不尽に奪われて、残された人間にできることは本当に少ない。裁判では決死の覚悟で声をあげて戦う」と決意を語った。
●原告側の主張「制作サイドの負う安全配慮義務は極めて重い」
訴状などによると、花さんはフジテレビと制作会社が共同制作していた『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演。次第に花さんの印象が悪化するような編集がされるようになり、番組での言動についてSNSで誹謗中傷が始まったとしている。
そんな中、花さんがプロレスの試合で着用している大切なコスチュームを他の出演者が洗濯し、コスチュームが縮んでしまう出来事が「コスチューム事件」として編集される。Netflixでは2020年3月31日、地上波ではフジテレビで5月19日に配信・放送され、花さんへの誹謗中傷がさらに殺到する事態となった。
花さんはNetflixの放映後、リストカットをおこない、SNSで公開したり番組スタッフに連絡したりした。しかし対策は取られずフジテレビでの放送後、誹謗中傷はさらに激化。2020年5月23日に自死した。
原告側はこの日、花さんが2社との間で結んだ出演契約(同意書兼誓約書)は、出演者の意思での番組離脱を認めないほか、撮影方針などすべてフジテレビらの指示・決定に従うことを誓約させるものだったと説明。「拘束性が極めて強い契約であり、制作サイドの負う安全配慮義務は極めて重い」と主張した。
撮影による疲労を蓄積させた花さんが、番組卒業を希望したにもかかわらず応じてもらえず、心理的ケアや相談体制もないまま、精神的に追い込まれたとしている。リストカットするなどしたのち自死に至ったのは、フジテレビらの安全配慮義務違反があったためで、損害賠償責任を負うと訴えている。
響子さんは意見陳述で、BPOへの人権侵害の申し立てにおけるフジテレビの対応に対し「絶望し、提訴を決めた」と述べた。
●「花のために祈る時間が奪われ続けている」
原告弁護団は2021年8月、提訴に先立ち、証拠保全の手続きを東京地裁に申し立てていた。
弁護団によると、裁判所は同年10月と11月、フジテレビと制作会社それぞれに証拠保全の決定を下し、検証物提示命令を出しているが、被告側はこの日の期日までに応じていないという。
原告代理人の伊藤和子弁護士は「この裁判では証拠を隠さずに真相解明に応じるべき」と被告側の対応を批判した。
「圧倒的な力を持つテレビ局や制作会社が、人気や視聴率のために、若い出演者の命を踏みにじって、この事件が起きた。2度と繰り返されないように、徹底した審理を求めたい」(伊藤弁護士)
響子さんは会見で、裁判資料などに目を通すことは「(精神的に)ひどいダメージを負う。本来はそんなつらいことしたくない」と法廷争いとなったことの負担を口にした。
「本当なら自分の心を守りながら、ゆっくり悲しみと向き合ったり、花のために祈ったり(したい)。そんな時間がこの3年間、私から奪われ続けています。
どんな問題だったか、改善に向けてどうすべきかなど被告側が真摯に対応してくれれば、何度もつらい思いをせず、被告側を憎むこともなく、花のために祈ることができたと感じています」
原告弁護団は、安全配慮義務違反に当たるかどうかについて、当時の花さんが精神疾患を発症していたか否かが重要になると指摘。被告側が花さんを医療機関にかからせるなどの対応を怠ったと主張するとともに、医師などの意見を求めて立証する方針だと話した。