フードデリバリーのウーバーイーツは、デジタルのプラットフォームによって仕事の割り振りが決まる「プラットフォーム労働」と呼ばれており、運営会社との雇用関係を伴わない、新しい働き方として注目されている。
しかし、その働き方は、仕事を割り振るプラットフォームの仕組みと、そのプラットフォームの運営会社の方針に左右される側面も強い。
東京都内でウーバーイーツの配達員を専業でしている40代男性に話を聞いてみた。(編集部:新志有裕、白井楓花)
●腹痛で苦しんでいても、自己責任で配達
10月の平日の午前9時、自転車を停めて、23区の路上からのオンライン取材に応じてくれた男性の表情には、疲れが見えた。
「実は途中でお腹が痛くなったのですが、今日は朝8時半くらいから仕事を初めて、すでに1件配達してきました」
自営業であるため、健康管理は基本的に自己責任。そんな厳しさがさっそく垣間見えた。
男性は以前働いていた個人商店の経営がうまくいっておらず、試しにウーバーイーツに登録。その手軽さから次第に配達員としての業務の比率を増やし、専業になった。
男性が気になっているのは、やはり報酬についてだ。
●ブラックボックスの報酬「結局はウーバーの言い値だ」
配達員のアプリに配達のリクエストが届くと、その画面には届け先と報酬額が表示される。しかし、その報酬にどんな基準で決まっているのかはよくわからない。もともとは明確な基準があったが、今年5月の新報酬体系の導入によってわからなくなった。アプリを立ち上げて、オンラインにする時間が同じであっても、週によって報酬に変動がある。
「結局ウーバーの言い値になっちゃってるんですよ」と男性は語気を強める。
「ウーバーイーツは結構広まってきたので、今後注文数が減ることはあっても、大幅に増えることはないでしょう。それなのに、配達員の数は増えているようです。需給のバランスを見てなのか、配達の単価は余計に安くなっている印象がありますね。時間帯によっては2、3件配達しても1000円に達しないので、高い料金設定の時にやらないと意味がないです」
ウーバーイーツには、「週末だけ」「空いた時間」といった、ライトな副業層が多く存在する。金額や距離をさほど気にせずに稼働する配達員がいる以上、運営側が報酬額を大幅に上げることは考えにくいという。
この点が、最低賃金が適用される雇用型のアルバイトとは異なる。需要と供給がダイレクトに報酬に反映されてしまうのだ。
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●ただ運んだだけなのに、低評価になるなんて
また、報酬のベースにもなっている可能性が高い「客からの評価」についても不満があるという。
ある日、男性がとある大企業の社員寮に配達に行った際、受け取りに出てきた注文客は明らかに不機嫌そうな表情。「この人なんなんだろう。ちょっと嫌な感じだな」と思いながらも、問題なく配達業務を終わらせた。しかし、あとでアプリを見ると、その客から低評価がつけられていた。
「僕はただ運んだだけなのに、ただ自分が不機嫌だっただけで評価を下げるなんて、意味がわからない。評価の理由も教えてもらえないですし、納得のいかないことしかないです」と怒りをあらわにした。
客が配達員を評価する際、その理由を書く必要はない。一度評価が下がると、配達のリクエストが入りにくくなるとも噂されているため、男性は気がかりだ。しかも、一度評価が下がると一気に下がり出すことがよくあるという。
「評価を下げられるケースの多くは、日本人の客からです。日本人は良くも悪くも細かくて綺麗好きですからね。それから、同調圧力的というか、誰かが評価を下げていたら自分が低評価をつけることの心理的ハードルも下がるんでしょう。
でも、理由もわからないままだと、配達員の側に何か落ち度があったとしても改善することができないのでしんどいです」
●労災保険の特別加入「掛け金が高いので厳しい」
このような仕組みのもとで一定程度の収入を得ようとすれば、配達件数を増やすために、長い時間アプリをオンライン状態(リクエストを受けられる状態)にするしかない。しかし、過重労働になると、事故に遭う危険性も高まってくる。
この男性も2度事故にあい、後遺症が残った。「配達で自転車に乗るのも正直怖いです。すごく気も使いますし、疲れますね」
最近、労災保険の特別加入がウーバーイーツの配達員にも認められたが、会社ではなく、配達員自身が保険料を負担する形になる。
「専業でやっている僕みたいなケースでは、高い掛け金を払わないといけないので厳しいです。それなら自分で入っている共済とかで賄うつもりです」
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●アルゴリズムを予測しながら動くしかない
様々な不満のポイントがあるが、どれも背景には運営会社の説明不足がありそうだ。
典型的なものが、先ほど出てきた今年5月の大幅な報酬体系の変更だ。「ダイナミックプライシング」と言ってしまえばそれまでだが、基準はわからなくなった。
この男性は、表示された金額と距離が割りに合わない場合は、リクエストを拒否するようにしている。しかし、その「拒否率」も、詳細は不明だが、評価や振り分けなど、アルゴリズムによる判断に影響していると言われている。
「小さな変化も含め、特にウーバー側からアナウンスされることはないです。やっていく中で『こうなんだろう』っていうのを把握するしかないのです。基準が変えられていたとしても、公表されていないので確認のしようがないですね」
●「長くやっていると、段々と思考停止になっちゃいますね」
結局、ウーバーイーツで効率よく稼ぐためには、仕組みを推測しながら、動くしかない。それは、プラットフォームの上で踊らされているともいえる。
「AIによる統制の仕組みというのは、もうそういう時代なのだと思っています。仕方ないです」と、男性は諦めの姿勢も見せている。
「結局、ウーバーの仕事を専業でするっていうことは、長時間の肉体労働と一緒なんですよね。長くやっていると、段々と思考停止になっちゃいますね」
それでもウーバーイーツをやめないのは、他になかなかいい仕事がないからだ。
「50代も見えてきて、本当はいい仕事があるのならそっちをしたいです。体力的な面でも、長時間配達するのはきつい。でももう年齢的に雇ってくれるところもないでしょうから、仕方ないですがウーバーを続けるしかないでしょうね」