ラーメン店が、麺オタク(ラオタ)の人から、インターネット上でネガティブな投稿を受ける事態が頻出している。
客商売ゆえに、アクションを起こせばイメージを損なうリスクもある。それでも、我慢ならずに裁判に訴えるが、たとえ勝ったとしても、代償が支払われないケースもあるのだ。
「業務用スープを使っている」などのネット中傷を受けたとして、あるラーメン店が名誉毀損で訴え、ラオタの男性に勝訴した。しかし、11万円の賠償金が支払われることはなく、泣く泣く諦めたという。
ラーメン業界では、元バイトAKBの女性店主が、「反社と関わりある店」などの指摘を受けたとして、これまたラオタ男性を提訴したばかり。女性店主は9月24日、「ラーメン評論家の入店お断りします」と宣言。「8割が私へマウンティングか言葉のセクハラが酷い人ばかりでした」と打ち明けた。
なぜ、ラオタはラーメン店に攻撃的になるのだろうか。(編集部・塚田賢慎)
●勝ったのに…
「勝訴判決が出たのは昨年の7月。結局、賠償されず、逃げ得を許すことになりました」
そう話すのは、福島県郡山市のラーメン店「ラーメンたなか(仮名)」の店主・田中裕太さん(仮名)だ。
田中さんは2019年7月、元客の男性Aさんから「アホなラーメン専門店、反社会勢力を使うのではなく、当たり前のように業務用スープを使っていたからだ、犯罪に手を貸したのも明白になってるのに?」などの投稿を自身のフェイスブックなどで繰り返され、名誉を傷つけられたとして、裁判を起こした。
郡山簡裁は2020年7月、名誉毀損を認め、Aさんに11万円の支払いを命じた。
ところが、その後もAさんが投稿をやめないことから、田中さんはツイッターで勝訴したことを報告し、弁護士ドットコムニュースの取材に経緯を説明した。
Aさんによる投稿はようやく落ち着きを見せるようになった。それでひと段落かと思いきや、今度は期限をすぎてなお、賠償の支払いをしなかったという。
福島地裁郡山支部(郡山簡裁)
●支払わずに済むのはおかしい
そこで、田中さんは弁護士を通じて、Aさんに対する財産開示手続をおこない、福島地裁郡山支部はこれを認めた。ところが、開示された情報をもとに、田中さんは賠償金を諦める判断をせざるをえなかったという。
「判決が出てから、男性は私の知り合いのラーメン店に行きづらくなったようで、一定の制裁は受けたともとらえることはできます。それに、11万円が返ってこないからといって、経営的なダメージはありません。
ただ、気持ちの問題です。彼は仕事もしているので、払おうと思えば払えるはず。判決が確定しているのに、支払わないで済むのはおかしいことです」
●バイトAKB店主への「反社」メッセージ
そんな田中さんも注目する裁判が始まっている。
元バイトAKBのラーメン店主・梅澤愛優香さんが、ラーメンオタクの男性Bさんを相手取り、損害賠償をもとめて起こした裁判だ。
Bさんが、梅澤さんの取引先の業者に対して、「反社」との関わりを指摘するフェイスブックメッセンジャーのメッセージを送ったのだ。
結果、業者は麺の材料を納入することを中止。梅澤さんは、新しい店を10月に出そうとしていた計画を見直さざるをえなくなったとして、横浜地裁に提訴した(9月8日付)。
Bさんは「業者への善意だった」と弁護士ドットコムニュースの取材に釈明していた。
田中さんは、Bさんによるこの釈明に、「自分の発言に責任をもっていない。誰にとっての善意なのか。梅澤さんにとっては悪意です。業者さんだって、取引がなくなれば、売り上げがおちる。本人の快楽的発言にすぎません」と話す。
●ラオタが攻撃する理由「ラーメン店主は、会えるアイドル」
ラーメンオタクの「攻撃」による被害をうけたという点で、田中さんと梅澤さんは共通する。
どうして、ラオタは店を攻撃するのか。その背景を、田中さんはこのように考える。
「ラーメン店って、素人に毛が生えた状態の人間でも、資金力や決断力さえあれば、出店できてしまうことがあるんです。私だってまったく関係ない業界から、修行なしで今の店を出しました。
ただ、修行をしていない素人だったからこそ、Aさんはじめ、たくさんのお客さんからのアドバイスを真摯に受けてきました。
ラーメン店主は、オタクにとって、会えるアイドルのようなものです。その相手に講釈を垂れるのは気持ちよいものがあるでしょう。
それで、軌道にのりだすと、今度はアドバイスを聞かなくなったなど反発を始めます。
さらに、女性には特に『言いやすい』のかもしれません。
うちの近くにも、女性店主がひとりで切り盛りしているラーメン店があります。男性のお客さんからデートを申し込まれたり、甘く見られる傾向はあるのかもしれないです」
梅澤さんも自身のラーメンの味について、「独学」だとしている。
「有名店で何年間修行したなどの肩書きをもって出店した人には、オタクがアドバイスするような付け入る隙がない。
私のように素人から始めた人間だったり、20歳そこそこで始めてすぐさま人気店に育てた女性には、ねたみがあるのでしょう。
あんなに若くてきれいな元アイドルなら、裏に金づるがいるとか、裏に反社がいると。そのような考えかたも持たれやすいと思います。ただ自らを納得させたいだけ。
さきほど、素人でも資金力や決断力があれば、店を出せると言いました。
でも、その少しの違いが、ラーメンをただ自作しているだけのオタクとの大きな違いです」(田中さん)
●ネット投稿から飲食店守る仕組みを
小さいお店であれば、そもそも裁判を起こす体力もないと田中さんは指摘する。そのうえで、「そこからさらに、賠償までされなければ、たまったものではない。ネットの投稿から飲食店を守る仕組みが必要だ」と話した。