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映画「狼をさがして」、右翼の街宣うけて一部で上映中止…配給会社「反日でも資金源でもない」
左から馬奈木厳太郎弁護士、小林三四郎社長、太田昌国氏(2021年5月11日/都内)

映画「狼をさがして」、右翼の街宣うけて一部で上映中止…配給会社「反日でも資金源でもない」

1974年から翌75年にかけて、三菱重工本社ビルなど、いわゆる連続企業爆破事件を起こした武闘派の左翼グループ「東アジア反日武装戦線」を追ったドキュメンタリー『狼をさがして』をめぐり、右翼団体が映画館に街宣活動をおこなっている。

こうした状況を受けて、神奈川県厚木市のミニシアターは5月1日、予定されていた上映の中止を発表した。一方、配給会社側は5月10日、東京都内で記者会見を開いて、これまでの経緯を説明したうえで「忸怩たる思いがある」とした。(ライター・碓氷連太郎)

●「礼賛ではなく、批判精神で作られている」

映画『狼をさがして』は、韓国人のキム・ミレ監督が、東アジア反日武装戦線の元メンバーや関係者を訪ねて、彼・彼女たちの現在を描くドキュメンタリー作品となっている。

配給会社「太秦」の小林三四郎社長は2019年、韓国で『東アジア反日武装戦線』(原題)というタイトルの映画が撮られていることに驚いて、キム監督と会って、上映を決めたそうだ。

三菱重工本社前爆破事件では、8人が亡くなり、400人近くが負傷していることから、小林社長は会見の冒頭で「問題をはらんだ作品であることをわかっていた」と断ったうえで次のように話した。

「しかし、作品を見てしまった以上、やらねばならないと思った。彼らの思想を辿りながら、目指したものと失敗したもの、失敗した後にどんな人生を歩んだのかを描いている。礼賛するのではなく、批判する精神で作られているから、考え方を提起できるのではないかと思った」(小林社長)

さらに出演者の1人で、東アジア反日武装戦線の支援を続けてきた太田昌国氏も、会見で「同作を考えるきっかけにしてほしい」と訴えた。

「東アジア反日武装戦線の事件はあまりにも衝撃的で、どんな立場にせよ、まともに向き合って考えるきっかけがなかった。お芝居やノンフィクション、フィクションで取り上げる人はいたが、これまで映画はなかった。

過去を忘れたままにしておかずに向き合う姿勢を、監督は撮影現場で見せていた。結果的には冷静な作品に仕上がったと思ったし、日本社会が過去と向き合わずに捨て去ったことを韓国の作家の力を借りて考える大きな契機になればと望みながら、公開を迎えることができた」(太田氏)

●横浜の映画館前に複数の街宣車が

3月27日のシアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)を皮切りに全国約30の劇場での公開が決まっていた。

だが、4月30日、厚木署から5月8日と9日に劇場近くで右翼団体が街宣をおこなうという連絡を受けたことで、厚木市のミニシアター「あつぎのえいがかんkiki」は5月1日、上映中止を決めた。

同館は5月4日、ホームページ上で「騒音などで近隣住民や隣接店舗に迷惑をかけることは心苦しい」「見物人が密となり、新型コロナウイルス感染拡大が懸念される」と理由を説明した。現在、その文言は削除されている。

同じ神奈川県内では、横浜シネマリン(横浜市)に公開初日の4月24日に右翼団体の街宣車が2台現れ、街宣をおこなった。さらに4月29日には複数の街宣車が連なり、約20分に渡り街宣を繰り広げた。

5月7日には2人組の男性が劇場に押しかけ、大声で「反日作品である」「映画の収益が東アジア反日武装戦線の資金源になっている」「厚木は上映を中止したのに、横浜は続けるのは許せない」などと約1時半にわたり騒ぎ立て、一度は退去したものの、夜間再び劇場に現れて業務を妨害したという。

一方、シネマリン側は「このような暴力的、かつ的外れな抗議行動に決して屈するとなく、上映を続けます」という声明を発表した。同館は伊勢佐木署と神奈川県警と協議し、警備体制を強化したうえで上映を続けることを決めている。

●代理人「威力業務妨害での告訴も視野に入れている」

会見に同席した太秦と横浜シネマリン代理人の馬奈木厳太郎弁護士は、「反日映画」や「収益が東アジア反日武装戦線の資金源になっている」という主張は、事実無根だと一蹴した。

太秦はこれまでも、大逆罪に問われたアナキストの朴烈と、同志の金子文子を描いた韓国映画『金子文子と朴烈』の上映に際して、右翼から街宣を受けたことがある。

しかし、映画自体は人気俳優のイ・ジェフンが出演していたこともあって、好評を博し、全国で公開された。ただ、このときは映画館の周辺で街宣されることはあっても、今回のように劇場内に立ち入って、騒がれることはなかった。

馬奈木弁護士は「誰もが安全に訪れることが前提となっている場所で、責任者への面会要求や上映中止を強要するのは看過できるものではない。威力業務妨害での告訴なども視野に入れている」とした。

●「もう少し抵抗で来たかもしれない」

なぜ横浜は上映を続けるのに、厚木の映画館は中止してしまったのか。

小林社長と馬奈木弁護士は、kikiが、公共施設やレストラン、100円ショップなどが入る複合施設にあること、ミニシアターを含めアートに関わる人たちのコンプライアンスが問われる時代であることが理由ではないかと見ている。

小林社長は、従業員の安全と場の安全を第一に考えた結果の上映中止であることに理解を示したうえで「(上映中止は)右翼の脅しに屈しただけではない、強い意思によるものだと思う。しかし街宣予告だけで上映を中止した事実は残るので、そこは劇場にとっても、自分にとっても重い」

「強い防御態勢を取っていなかったことはうかつだった」「表現の棄損に当たるし、受け入れられないと思いつつも、支配人の判断を翻す根拠を持っていなかった。一方的に劇場を責めるのではなく、私自身の問題で忸怩たる思いがある。結果的に中止したとしても、もう少し抵抗で来たかもしれない」と語った。

太秦は、神奈川県内でまん延防止等重点措置が取られ、劇場運営が縮小している現状から、期日や場所は未定としながらも、あらためて厚木市内での上映を目指しているという。

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