スクール水着によるライブやミュージックビデオのヌード映像など、過激なパフォーマンスで知られるアイドルグループ「BiS(ビス)」が2月中旬、解散発表直前のライブで「全裸ダイブ」をさせられそうになったと明かし、議論を呼んでいる。
メンバーのツイッターなどによると、同行していたミュージックビデオの映像ディレクターから、話題作りのために「今日のライブで全裸で(観客フロアに)ダイブしてほしい」と言われたのだという。この、あまりにも非常識な申し出に対して、メンバーたちは断固として拒否したそうだ。
それでは、もし仮に、事務所が所属タレントに対して、こんな非常識な「命令」を出したとしたら、タレントはそれに従わなければならないのだろうか。芸能関係の法律問題にくわしい太田純弁護士に聞いた。
●そんな命令に従う義務はない
「アーティストがライブ演奏中などに全裸になって騒がれるのは、古くからある話です。最近でも芸人さんが某収録において裸になり、公然わいせつの嫌疑をかけられたとの噂を耳にしました。
ただ、こうしたケースの多くは、現場の高揚感から、アーティスト自身が主体的に行動した結果でしょう。所属事務所がタレントにそういった行為をさせたのとは違います」
太田弁護士はこのように指摘する。所属事務所は、さまざまな仕事上の命令をタレントに出しているように思えるが、こうした命令もあり得るのだろうか。
「一般的に、タレントと所属事務所は、マネジメント契約を締結しておりますが、契約書は通常、著作権や商品化権などの権利の帰属や、収益配分の基本合意を定めてあるにすぎません。
ひとつひとつの公演のあり方についてまで、契約段階で細かく規定することは困難だからです。
したがって、各公演の演出内容は、その都度、関係者間の事前の合意で具体的に定まるのが、通常の形態です」
それでは、事前の合意でそういった過激な「演出」が定められたとすれば、タレントには従う義務が生じるのだろうか?
「仮にですが、所属事務所とタレントが、『公然わいせつとして刑事罰の対象となるようなパフォーマンス』をすると事前に合意していたとしても、そのような合意は公序良俗に反し、無効とされるでしょう(民法90条)。
したがって、義務は生じません。
そのような義務付けを、マネジメント契約から根拠づけることは困難で、事務所がそれを強要すれば、逆に契約に付随する安全配慮義務に反するか、または人格権の問題として、事務所側が慰謝料請求を受ける可能性もあります」
いくら契約や合意があっても、公序良俗に反するような命令に、タレントを従わせる根拠にはならないということだ。
●違法なパフォーマンスを実行したら大問題
そもそも万が一、タレントがパフォーマンスを実行し、法に触れることになったら、それこそ取り返しのつかない大問題となりそうだ。
「もし、公然わいせつ罪になるようなパフォーマンスを強行してしまった場合には、刑法的にみれば、事務所とタレントの両者は共同正犯(事務所は共謀共同正犯)となり得ます。
そうした際には、第三者である会場運営者にも、不測の事態が及ぶ可能性すらあるでしょう。
関係各方面に致命的な悪影響を与えることになりかねない。そのようなリスクがある行為だと思います」
太田弁護士はこのように指摘し、注意を促していた。