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女性職員が手足の「入れ墨」で減給処分 「大阪市」の職員倫理規定は厳しすぎないか?
ファッションとして「タトゥー」を入れる女性も増えてきた

女性職員が手足の「入れ墨」で減給処分 「大阪市」の職員倫理規定は厳しすぎないか?

おととしに導入され、物議を醸した大阪市職員の「入れ墨禁止」ルール。橋下徹市長の意向で定められた新しい規則のもと、今年1月末に初の処分者が出た。市立学校の女性事務職員(23)が、減給1カ月(10分の1)の懲戒処分を受けたのだ。

報道によると、女性職員は職員倫理規則で入れ墨が禁止された後に、入れ墨の施術を受けた。入れ墨は3カ所。左上腕に500円玉大、左足首2カ所に数センチの入れ墨があるという。女性職員は「(他人から)見えなければいいと思った」などと話しているそうだ。

しかし思い返せば、このルールが導入された際に問題視されていたのは、「市民に不安感や威圧感を与える」といったケースだったはずだ。図柄やデザインは明らかではないが、若い女性の腕や足首にある500円玉大、数センチ程度の入れ墨が、市民に不安感や威圧感を与えるのだろうか。

いわゆる「おしゃれタトゥー」と呼ばれるものまで禁じているとすれば、厳しすぎるといえないか。この大阪市の職員倫理規則は、「個人の尊厳」や「幸福追求権」をうたった日本国憲法に違反しないのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。

●「入れ墨をする自由」は憲法で保障されている?

「今の日本だと、大阪市の職員倫理規則は憲法に反しない、という結論になるでしょう」

中村弁護士はこのように話す。どうしてそういう結論になるのだろうか?

「まず、入れ墨を入れる自由については、憲法上保障されると考えられます。

裁判で争われた前例はありませんが、髪型の自由などと同様、憲法13条の幸福追求権に由来する自己決定権の一つとして、保障されるでしょう」

入れ墨をする自由は、憲法上も保障される……にもかかわらず、自治体が職員の入れ墨を禁止できるのは、なぜだろうか。

「地方自治体は、自治体という組織体としての内部規律を定める権限をもっています。内部規律として、どのような規則を定めるかは、自治体の長に委ねられているのです」

そのルールで「職員個人の自由」をどこまで規制できるのだろうか? 中村弁護士は「過去の判例では、規制の目的に合理性が認められ、かつ規制手段との間に関連性が認められれば、広く裁量を認めるのが特徴です」と話す。

そうなると、今回のような懲戒処分も仕方ないのだろうか?

「確かに、他人から見えない位置に入れた入れ墨まで規制するのは、規制が広範すぎる、と個人的には思います。ただ、現時点の裁判所の考え方からすると、裁量逸脱といえるかどうかは微妙です。今回の処分については、規定が定められた後に施術を受けて入れ墨を入れているので、なおさら争いづらい事案だといえるでしょうね」

●入れ墨の社会的な「位置づけ」は変わりつつある

その一方で中村弁護士は、「入れ墨」の社会的位置づけについて、次のような見解を述べる

「たしかに今は、入れ墨について『社会通念上許されない』と考える人もいるでしょう。しかし、社会通念は時代によって変わるものです。

たとえば、映画『イージーライダー』の主人公は、長髪のヒッピーだという理由で迫害されます。しかし、映画の舞台となった1960年代のアメリカ南部で『ありがち』として描かれた光景も、現代では社会的に許されません。

入れ墨の位置づけもずいぶん変わり、今では『タトゥー』という呼び名で、ファッションとして認知されつつあります。このタトゥーが『任侠』とか『暴力団員』のアイコンだと言われれば、違和感を覚える人も多いのではないでしょうか」

そうすると、今回のように様々な考え方がありうるケースでは、どんなルールをつくるべきなのだろうか? 中村弁護士は次のように述べる。

「みなさんは、何もかも権力者に決めてもらう世界をお望みでしょうか? 入れ墨をするかどうかは『個人の自由』に属する問題です。個人の自由を規制するルールについては、あくまで必要最低限にとどめるべきで、業務に支障をきたさないものまで禁止すべきではないと考えます」

このような考えが裁判所に支持される可能性は、どれぐらいあるのだろうか?

中村弁護士は「今すぐは難しいでしょう。しかし、『不必要な規制を許さない』という風潮を社会全体で作れば、裁判所の判断も変わってくると思います」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中村 憲昭
中村 憲昭(なかむら のりあき)弁護士 中村憲昭法律事務所
離婚・相続、交通事故など個人事件と、組織が万全でない中小企業を対象に活動する弁護士。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。その他医療訴訟や建築紛争など専門的知識を要する分野も積極的に扱う。

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