三重県は、LGBTなど性的少数者に対する差別を禁止する条例を制定する。鈴木英敬知事が6月3日、県議会本会議の知事提案説明の中で表明した。年内の制定を目指す。
この条例には、都道府県として初めて、本人の了解なく性的指向や性自認を暴露するアウティングや、カミングアウトの強制の禁止を盛り込む方針だ。
一部報道で「罰則の検討」も報じられたが、県ダイバーシティ社会推進課は、弁護士ドットコムニュースの取材に「罰則は現時点で未定だ。実効性の担保について議論していく」と回答した。
アウティングの禁止をめぐっては、一橋大法科大学院の事件がきっかけとなって、東京都国立市で2018年、全国に先駆けた条例が施行されている。
今回の三重県の方針について、LGBT問題に取り組む南和行弁護士に聞いた。
●アウティングは人間関係を破壊する
――そもそも、アウティングはなぜダメなのでしょうか?
アウティングは、情報の暴露により、社会や他人に自分をどう見せるのかという「情報コントロールの自由」を奪うことです。だから、アウティングは、ときに人間関係を破壊し、孤立を引き起こします。現実にそうならなくとも、本人は「そうなるかもしれない」という恐怖と不安に苛まれます。
性の問題に限らず、出自や家族の事情、健康や疾病についての情報など、個人が隠したいと思う情報を勝手に暴露するアウティングは、いずれも人権侵害です。
「誰も気にしていないのに大げさだ」「堂々とすればいいことなのに」「いつまでもクヨクヨせず早く元通りになりなよ」という反応は、アウティングで奪われることについての無理解です。
――アウティングを条例で禁止することはどう捉えていますか?
アウティングが「ヒドいこと」だということについて、伝わる人には伝わるのに、伝わらない人には全然伝わらないジレンマの中、「あぁ、法律や条例で、アウティングは違法だと書いてくれていたら!」と思うこともあります。
しかし、伝わらない人に「法律(条例)に書いてあるからダメなんですよ!」と言ってみても、それは「ただ怒られた」「なんだか住み心地が悪くなってきた」と思わせるだけかもしれません。結果として、その人が口をつぐんでも、それは「怒られるから口をつぐむ社会」になるだけです。
――条例に「罰則」を盛り込むという議論もあるようです。
罰則をつけると、かえって問題の本質が理解しにくくなるのではないか危惧しています。「アウティングをしたら犯罪者になる」という入口と出口しか見えません。
本質を理解することが重要な問題であるからこそ、罰則によらなくても、たとえば、国立市の条例のように、アウティングが違法であると確認するようなかたちのほうが穏当ではないでしょうか。
ピンとこない人をむやみに萎縮させることなく、「自分は平気だと思っていたけど、他人もそうだとは限らないのだ」と、その想像力に働きかける。自分が自分を中心に生きているように、他人もその人を中心に生きている。
自分が自由であるのと同じように、他人も自由である。言い尽くされた「当たり前の人権」をポロッと忘れたときに起こるのがアウティングなのです。