12月20日に発売予定のアダルトゲームに登場する店の外観に、人気の洋菓子店「パティシエ・エス・コヤマ」(兵庫県三田市)の外観が無断で使われているとして問題となった。
神戸新聞が、ゲームの主人公やヒロインたちが働く喫茶店として、「パティシエ・エス・コヤマ」の外観がそのまま描かれていると報道したもので、一部ファンの間ではすでに「聖地巡礼」が行われていた。
ゲーム制作会社は11月22日、公式サイトで謝罪するとともに、「背景画像をすべて差し替える」と発表した。同社は「参考にさせて頂くにあたり、実際の店舗のデザインとは要所の変更を行い、配慮をさせて頂いておりましたが、店舗様にはご迷惑をお掛けする結果となり深くお詫び申し上げます」としている。
今回はゲームの画像が差し替えられるという結末だったが、そもそも実在する建物をゲーム内で描くことに法的な問題はないのだろうか。著作権問題に詳しい井奈波朋子弁護士に聞いた。
●建物の実用的、機能的な側面は著作物として保護されない
ゲーム内で実在の建物を描く際、著作権の問題はどのように考えればよいか? 「パティシエ・エス・コヤマは、有名な洋菓子店で、店舗の外観も特徴があると考えられます。しかし、だからといって、建物が著作物として保護されるとは限りません。
たしかに、建物の著作物は、著作権法に保護される著作物の例示として掲げられています(10条1項5号)。しかし、著作権法で保護される著作物は、創作的表現であることが求められます。
建築物にもさまざまな種類がありますが、一般住宅や通常のビルのような建物はありふれた建築といえます。ありふれた建築については著作権として保護される要件である創作性が認められません。
また、建物は人が居住し、店舗として使用するなど、実用的かつ機能的な側面があり、その観点からデザイン上制約されることになります。建物の実用的かつ機能的側面はアイデアであり、著作物として保護される表現ではありません」
●建物が著作物として認められるには?
では、「建築の著作物」とそうでない建物はどのように判断するのだろうか。
「裁判例では、建築の著作物に該当するためには、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となるような芸術性を具備していることが必要とされますが、パティシエ・エス・コヤマの場合、店舗の外観に独立して美的鑑賞の対象となるような芸術性を認めることは難しいといえます。
仮に著作物であると認められたとしても、パティシエ・エス・コヤマは施主であり、建築の著作者は別人と考えられますので、パティシエ・エス・コヤマが著作権を主張することはできません」
●「知的財産権を理由としたコンテンツ削除の主張は難しい」
それ以外に、ゲーム制作会社に権利を主張することは可能なのだろうか。
「顧客吸引力を有する物に対して、『物のパブリシティ権』を理由としてコンテンツから削除させるという主張も考えられます。しかし、『物のパブリシティ権』は判例により否定されているため、法律的には成り立たない主張です。
また、建物の外観であっても需要者の間で広く知られているものは不正競争防止法の他人の商品等表示(2条1項1号)に該当し、他人が商品や営業との誤認混同を惹起する行為を禁止することができます。
本件では、建物の外観が商品等表示として認められるかどうかにも問題がありますが、たとえ認められたとしても、ゲーム制作会社が商品や営業との誤認混同を惹起したわけではないので、不正競争防止法違反の主張は成り立たないと考えられます。
さらに、建物は、立体商標として商標登録することができます。しかし、本件では、仮に商標登録していたとしても、ゲーム制作会社は建物を商標として使用したわけではないので、コンテンツからの削除を求めることはできないと考えられます。
今回はゲーム会社が断念しましたが、もしも本当にゲーム内で建物の外観が描かれていたとしても、知的財産権を理由とするコンテンツからの削除の主張は困難と思われます」