自分で営業活動してとってきた仕事なのに、マネジメント会社(事務所)から報酬の20%も「ピンハネ」されている――。ある放送作家の男性(Aさん)から、このような相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。はたして、こんなピンハネは、法的に問題ないのでしょうか。
●仕事はほとんど紹介されない
都内在住のAさんは、あるマネジメント会社との間で、専属のマネジメント契約をむすんで、フリーランスの放送作家として、仕事をしています。基本的には、マネジメント会社から紹介された仕事は、報酬の20%がマネジメント会社の取り分で、残りがAさんの取り分とされています。
ただ、自分にあった仕事がほとんど紹介されないので、Aさんはみずから営業活動をおこなって、仕事をとってきています。これは契約上、認められています。また、マネジメント会社のマネージャーは、十分に働いてくれないそうで、制作会社とのギャラ交渉やスケジュール調整も自分でしなければなりません。
●自分で営業活動した仕事からも「ピンハネ」される
ところが、このように自分でとってきた仕事でも、報酬の20%がマネジメント会社の取り分となっているというのです。「いますぐに生活に困る」というわけではないのですが、自分でとってきた仕事の割合が増えてきたので、「さすがにどうなのか?」と疑問に思ったというわけです。
そこで、マネジメント会社との契約を解消しようと考えたのですが、業界の同僚・先輩たちから、契約を解消したあとも、マネジメント会社経由の仕事からは20%のピンハネがつづくという話を聞いたので、Aさんは現在、とても迷っている状況です。河西邦剛弁護士に聞きました。
●「ピンハネをやめさせることはできる」
「ピンハネをやめさせたり、その割合を下げてもらうことは可能です。
たしかに、フリーランスの人が、仕事をとってきてもらうために、マネジメント契約をむすぶことは少なくありませんが、最近では芸能界を中心に『エージェント契約』をむすぶパターンも増えています。
このエージェント契約というのは、エージェントがとってきた仕事と自分で取ってきた仕事を区別するというのが特徴です。なので、エージェント契約に切り替えることで、みずから取ってきた仕事についての報酬ピンハネを止めるようにさせることもできます。
したがって、まずは、マネジメント会社との交渉で、エージェント契約への切り替えを目指してみることが考えられます。
そして、マネジメント会社が交渉に応じない場合や決裂した場合ですが、そもそも一方的に契約を解除できるケースも少なくありません。契約書には、数年単位の契約期間が定められている場合がほとんどですが、マネジメント会社が十分な仕事をしない場合には、その債務不履行を理由に解除することもできます。
また、明確な債務不履行がないとしても、民法や労働法を根拠に途中解約できるケースもあります」
●公正取引委員会に申し立てる手も
契約を解除したあとも、マネジメント会社経由で紹介してもらった仕事の報酬から、ピンハネされることがあるようです。
「このような契約は、裁判において、無効と判断される可能性は十分にあるでしょう。ある意味、マネジメント会社が、契約終了後も永遠に搾取することができる状態になります。このような契約については、独占禁止法や、公序良俗との関係でも有効性に問題が生じてきます。
実際に、このような場合には、マネジメント会社に対して『この契約は無効』と主張して、今後はマネジメント料を支払わないと通知することがあります。
相手方からは『訴えるぞ』と回答がくる場合もありますが、実際に訴訟提起されるケースは多くありません。マネジメント会社側も、このような規定が無効になる可能性は十分わかっています。
もし仮に訴訟提起して、裁判で契約の無効が確定すれば、ほかのフリーランスとの関係にも影響が生じかねないので、実際に訴訟提起することはあまりしません。脅す道具として契約書を使用して、それに応じる人からは利益を得ようと考えているのではないかと疑われるケースすらあります。
フリーランスとしては、独占禁止法を扱っている公正取引委員会に対して、申し立てをおこない、公正取引委員会による調査や、さらには行政指導や行政処分を求めることも可能です。
あまりに目に余るようでしたら公正取引委員会への申し立てを検討してもいいでしょう」