歩道を全速力で走る自転車。前に人が歩いていても、スピードを緩めずにうまくかわしながら進んでいく。コロナ禍をきっかけに、自転車によく乗るようになった東京都内の会社員Mさんは、都心の歩道を自転車で爆走することが多い。
自転車は車道を走る、という原則をMさんもなんとなく知っているが、Mさんは「車道は路上駐車が多すぎて、車道の端を走れなくて危ないんです。うまくかわしているから、歩道でもぶつからない自信はあります」と語る。
若干の罪悪感があるため、先日、日比谷公園の周りを移動する際に、車道の「自転車ナビマーク」に従って走ったが、路上駐車が多すぎる一方、後ろから車がものすごいスピードで迫ってくるので、車道を断念。結局、歩道を全速力で走ったそうだ。
Mさんの行為はどんな法的問題に発展する可能性があるのか。山岡嗣也弁護士に聞いた。
●例外的に自転車で歩道を通行することができる場合かどうか
まず、道交法で、自転車の歩道走行はどんな位置づけになっているのか。
「自転車は、原則として、車道の左側端を通行する必要があります(道路交通法17条1項、18条)。
もっとも、自転車は、例外的に、以下の場合に歩道を通行することができます(同63条の4第1項)。
①道路標識等で通行することができるとされている場合
②自転車の運転者が児童、幼児等の場合
③車道または交通の状況に照らして、自転車の通行の安全を確保するために歩道通行がやむを得ないと認められる場合
ただし、自転車は、例外的に歩道を通行する場合でも、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の進行を妨げるときは一時停止しなければならないとされています(同63条の4第2項)」
Mさんのケースはどうだろうか。
「まずは、例外的に自転車で歩道を通行することができる場合に当たるかを検討する必要があります。
警視庁のホームページによれば、都内の歩道の約6割は、自転車及び歩行者専用標識があるそうです。このため、今回のケースでも、自転車及び歩行者専用標識がある歩道であれば、自転車の歩道通行自体に違法性はありません。
また、歩道に自転車及び歩行者専用標識がなくとも、路駐の車の状況によって、安全確保のために歩道通行がやむを得ないと認められる場合であれば、自転車の歩道通行自体に違法性はありません」
●怪我を負わせた場合、多額の賠償責任や刑事責任が生じるリスク
では、Mさんは「やむを得ない」ということで問題ないのか。
「Mさんは、全速力のスピードで、歩行者をうまくかわしながら、自転車で歩道を爆走しているようです。この走行方法は、歩道の徐行義務に違反し、歩行者に衝突することのないよう安全に進行すべき注意義務に違反するものとして違法と評価される危険性があります。
歩行者が前方の状況によって若干進路を変更することはよくあることですから、歩行者をうまくかわしたつもりが、衝突してしまったという結果が生じる危険性があります。そして衝突した場合には、高速度のために被害者に重大な怪我を負わせる結果となりかねません。
このような自転車の走行方法で歩行者に衝突し、怪我を負わせた場合には、自転車運転者に損害賠償責任が発生します。被害者に後遺障害が残った場合、その損害額は多額に上ります。
また、危険な運転によって被害者に傷害の結果が出た場合には、過失傷害罪や重過失致傷罪が成立し、刑事責任も負うこととなります」