弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 交通事故
  3. 電動キックボード、規制緩和と事故抑止は両立できる? 時速15キロ以下で免許不要の案も
電動キックボード、規制緩和と事故抑止は両立できる? 時速15キロ以下で免許不要の案も
電動キックボードの実証実験ではヘルメットも不要とされている

電動キックボード、規制緩和と事故抑止は両立できる? 時速15キロ以下で免許不要の案も

電動キックボードの実証実験が東京都内や千葉、大阪、福岡などで行われている。規制緩和に向けた特例措置で、利用者は自転車のシェアリングと同じ感覚で、特定のエリア内を移動できる。

また、警察庁の有識者委員会は今年4月、時速15キロ以下の一定の大きさの電動キックボードの運転は免許を不要とする中間報告をまとめている。ひき逃げ事故や、飲酒・無免許運転の摘発が相次ぐ中で、規制緩和を進める背景や課題は何か。次世代モビリティや自動運転の法制度に詳しい佐藤典仁弁護士に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)

画像タイトル 佐藤典仁弁護士(本人提供)

●最高速度で分類 新区分「小型低速車」に

――電動キックボードの実証実験が都内などで行われています。どんな狙いがあるのでしょうか。

「今の道路交通法では、電動キックボードは『原動機付自転車』、いわゆる原付バイクと同じカテゴリーになります。乗る人はヘルメットを着用し、運転には免許が必要です。当然、車道を走行します。

でも、実証実験では最新の特例措置で、一定の要件を満たす電動キックボードをトラクターなどと同じ『小型特殊自動車』に分けています。特例措置により、車道に加え自転車専用レーンも走行できるようにするとともに、小型特殊自動車のカテゴリーに入れたことで、ヘルメットの着用義務がなくなります。ただし、走行できるのは認定を受けた特定のエリアだけです。

以前から電動キックボードのシェアリング事業者が、走行場所の拡大やヘルメットなしでも乗れるように国に要望していました。ヘルメット着用が義務化されていると、シェアリングの電動キックボードに乗ってみようというハードルが上がり、サービスが広がらないというのが理由です」

画像タイトル シェアサービス「LUUP」のポート

――電動キックボードの法律の整備も進んでいます。どのような段階ですか。

「今年4月に警察庁の有識者委員会が中間報告をまとめました。中間報告では電動キックボードや自動配送ロボットなど『次世代モビリティ』と呼ばれる乗り物について、それぞれどんな交通ルールが必要か方針を示しました。

今の道路交通法では、電動キックボードは『原動機付自転車』、いわゆる原付バイクと同じ区分で、車道を走らなければなりません。乗る人はヘルメットを着用し、運転には免許が必要です。サイドミラーを付けるなど車体も保安基準を満たす必要がありますし、ナンバープレートもつける必要があります。

中間報告では最高速度に応じ、一部の電動キックボードの区分を変えます。時速15キロ以下の一定の大きさの電動キックボードについては『小型低速車』という全く新しいカテゴリーをつくる考えです。時速15キロは自転車と同じぐらいのスピードですね」

――区分を変えると何が変わるのでしょうか。

「小型低速車にあてはまる電動キックボードは、基本的に免許は不要で、ヘルメット着用は義務としない方向です。走行場所は、車道のほか、自転車専用レーンや路側帯なども走ることができますが、歩道での走行は認めていません。

中間報告では、免許は不要とする一方で、児童や幼児の運転は危険という意見があり、16歳程度を運転できる最低年齢とすることが適当としています」

●交通ルールの徹底と、取り締まりを強化する必要がある

――電動キックボードの速度によって、「小型低速車」と「原付バイク」という2つの交通ルールができるということでしょうか。ひき逃げ事故や飲酒運転による摘発が起きている中で、複雑なルールは大きな混乱を招きそうです。規制緩和に進む背景は何でしょうか。

「もともと『原付』カテゴリーに、全ての電動キックボードを当てはめること自体、無理があったのだと考えます。

現行の道路交通法では、車体で使われている原動機の定格出力などに応じて車両区分が定められています。その区分に応じて、免許の必要性や通行方法などの交通ルールが適用されている結果、規制が過剰なものとなっていたのです。

また、以前から電動キックボードのシェアリング事業者からも通行場所の拡大を求めるなど規制緩和を求める声が上がっていました。

個人的には、合理的な要望だと思っていますし、小型低速車という新しい区分をつくることについて違和感はありません。

一方で、ユーザーへの教育、運転ルールの徹底、取り締まりの強化の3点セットが必要です。日本の交通ルールは『本音と建前』があります。例えば高速道路で制限速度が100キロの場所の実勢速度が110~120キロだったりするといったことです。

自転車だって逆走や飲酒運転、信号無視などルールを守らない人が非常に多い。こうした中で電動キックボードなどの新しい乗り物が入っていくのですから、事故のリスクは上がります。

グレーな部分はつくらずに、交通ルールの徹底と、取り締まりを強化する必要があります。私はドイツでの生活経験がありますが、住宅地では制限速度時速30キロの場所でもオービスが設置されていましたよ」

画像タイトル 街中でみかける電動キックボード

●来年には法改正、自転車専用レーンの整備も必要

――法改正に向けて今後、どのようなスケジュールで進むのですか。電動キックボード以外にも最近、規制が緩和された乗り物はあるのでしょうか。

「早ければ来年春の通常国会で道路交通法が改正、後に施行されると思います。電動キックボードを含む次世代モビリティについては2021年の政府の成長戦略フォローアップにも盛り込まれているので早く進むでしょう。

最近、規制緩和された乗り物の例として、『ミニカー』(総排気量50cc以下、3輪以上)があります。今年、最大積載量を30キロから90キロまで引き上げました。コンビニが宅配業務などに使っていてニーズが大きかったためです。

事業者からの要望もあり、警察庁の所管の自動車安全運転センターの実験で、安全性を確認した上で、規制緩和されました」

――今後、電動キックボードが普及するために何が必要でしょうか。

「コロナ禍で3密を回避するために、自動車や自転車以外の乗り物を求めることは、合理的な要望だと思っています。手軽な移動手段である電動キックボードは海外では普及が進んでいます。

ただ、国内においては電動キックボードが走行できるとされる自転車専用レーンなどの整備は道半ばです。今後は交通ルールや安全教育の徹底と合わせて、こうした道路の整備などが必要です」

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする