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電動キックボード、街中でのシェア利用は実現するか 10月から自転車専用通行帯で実証実験
新しい移動手段として注目される電動キックボード(mobby ride提供)

電動キックボード、街中でのシェア利用は実現するか 10月から自転車専用通行帯で実証実験

電動キックボードを自転車専用通行帯で走行する実証実験が10月から始まる予定です。本来、電動キックボードは原動機付き自転車と同じ扱いですが、シェアリングを目指す事業者の要望を受け、警察庁が認定を受けた実証事業に限り、自転車専用通行帯で走ることを認める特例案を出しました。一方で、個人が必要な保安部品を付けずに乗っているケースもあり、事業者や警察はルールを守った利用を呼び掛けています。(ライター・国分瑠衣子)

●原動機付き自転車に該当、現状では免許を所持して車道を走る義務

電動キックボードは、ハンドルが付いていて車輪がついた板に立って乗る乗り物です。乗り始めは片足で地面を蹴って進み、安定したら両足を板に載せ、ハンドル部分に付いているレバーで加速や減速します。2輪タイプがスタンダードです。フル充電で走れる距離はメーカーによって異なりますが、最大65キロメートル走行できるタイプもあります。短距離の移動で手軽に利用できるため、欧米では都心部を中心に電動キックボードのシェアリングが急速に普及し、日本でもシェアリングを目指す事業者が増えています。

画像タイトル 新しい移動手段として注目される電動キックボード(mobby ride提供)

日本では道路交通法と道路運送車両法上、電動キックボードは原動機付き自転車に該当します。公道で乗車する場合はナンバーを取得し、サイドミラーや前照灯、方向指示器といった必要な保安部品を付け、ヘルメットを着用の上、運転免許証を所持して車道を走らなければなりません。

全国で浸透したシェアサイクルの電動自転車は「軽車両」に分類されるのに対し、電動キックボードは走行場所が限られ、免許証を所有していなければ乗れないなど制約が多いためシェアリングのハードルが高いのが現状です。

今回警察庁が出した特例案は、経済産業省が所管する産業競争力強化法に基づき、事業者から出された規制緩和の要望を受けた措置です。パブリックコメント(意見公募)を経て、正式決定後、10月から来年3月まで自転車専用通行帯で実証実験が行われる予定です。実証実験の際も原動機付き自転車と同じ保安基準を満たす必要があります。

電動キックボードの安全面の検証を行うことで日本でのシェアリング事業への弾みとなることが期待されています。実証実験で出せるスピードは時速20キロメートル以下で、車体の大きさも細かく定められています。また、事業者向けの特例なので、個人が自転車専用通行帯で電動キックボードに乗ることは認められません。

●事業者「駅から目的地へのラストワンマイルを楽しく移動できる」

電動キックボードのシェアリング事業を手掛けるスタートアップmobby ride(福岡市)の日向諒社長は「電動キックボードの魅力は、駅から目的地へのラストワンマイルを楽しく移動できること」と説明します。自転車では味わえない目新しさや楽しさが体験できるといいます。

同社は2018年12月に福岡市の実証実験サポート事業に採択され、2019年3月、福岡市内の平和台陸上競技場で市民を対象にした初の乗車体験会を行いました。2019年10月から2020年4月にかけて九州大学の伊都キャンパスの敷地内で教員や学生らを対象にした実証実験を行い、走行データを収集しました。

画像タイトル 九州大学のキャンパスで行われた実証実験の様子 (mobby ride提供)

九州大学での実験の際は、新技術の実証実験を通じて規制緩和を進める国の「規制のサンドボックス」制度を利用しました。このほか、工場の敷地内での活用を提案、現在はトヨタ自動車九州が宮田工場内で電動キックボードを移動手段として採用し業務効率化につなげています。

日向社長は、福岡市は都心に比べて、地下鉄の駅やバス停から目的地への距離が遠く、徒歩では時間がかかる傾向があり、電動キックボードのシェアリングを事業化しやすい街だと考えています。

ただ、現行法では電動キックボードは街中で手軽に乗ることは難しいため、福岡市は2019年、国家戦略特区で一定の要件を満たす電動キックボードの規制を緩和して「自転車」とみなすよう国に要望しました。電動自転車同様に電動キックボードのシェアリングが進めば、渋滞の緩和や放置自転車の解消につながります。

画像タイトル 九州大学のキャンパスで行われた実証実験の様子 (mobby ride提供)

●ルール違反の利用に戸惑う声も「無灯火で音もなく現れて、何かと思った」

コロナ禍で「3密」を避ける乗り物としても注目される電動キックボードですが、日向社長は「日本での走行を想定せずに造られた製品を個人で並行輸入したとみられる人が、法律で定められている保安装置やナンバープレートをつけずに無灯火で運転している人も見ます。普及に向けて動き出している時だけに事故が起きないか心配しています」と指摘します。並行輸入品だけではなく、国内でも「公道走行可能」とうたいながら保安基準を満たさない製品を販売する事業者もいるそうです。

市販の電動キックボードはタイヤが小さいタイプもあり、スピードを出しすぎると段差を乗り越える時に転倒する危険性もあるといいます。同社は実証実験の時には、乗車する人がスピードを出しすぎないように、遠隔で最高速度を時速15キロメートルに設定しています。また、タイヤも直径が大きくタイヤ幅が太いものを採用しています。

実際、インターネット上でも「電動キックボードに乗って通勤している人を見かけた。便利そうだからほしい」との声が上がる一方で、「歩道をものすごいスピードで走っていて怖い」と安全面を心配する声も上がっています。

千葉市に住む会社員の男性は、8月末の午後11時ごろに車道を無灯火で電動キックボードに乗っていた人を見掛けたといいます。「ライトも音もなく突然目の前に現れたので何かと思った。Uターンして走り去ったが、正しい乗車方法ではなかったのでは」と振り返ります。

神奈川県警はホームページ上で電動キックボードの法律上の解釈を掲載しています。購入した人は原動機付き自転車と同じルールで乗らなければならないことや、販売する事業者は購入者に対して、乗り方や扱いについて正しい説明をする必要があることを注意喚起しています。

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