高齢者が引き起こす交通事故が相次いでいる。10月下旬には、宮崎市で認知症の73歳の男性が運転する車が歩道を暴走し、女性2人が死亡、男女5人が重軽傷を負うという悲惨な事故が発生した。11月上旬には、福岡県みやま市で93歳の女性が、16歳の高校生をひき逃げした疑いで逮捕された。
全国の自治体では、運転に不安がある高齢ドライバーに対して、免許の自主返納を勧めている。だが、車がないと日常生活が大変な地方を中心に、自主返納がスムーズに進んでいるとは言いがたい状況のようだ。
高齢者の交通事故を減らすために、運転免許の自主返納を促進するような方策はないのだろうか。木野達夫弁護士に聞いた。
●現行の高齢者講習制度は十分な内容なのか?
「現在、公安委員会では、70歳以上のドライバーが運転免許を更新する際には、高齢者講習等の講習を受講しなければ免許の更新ができない制度を取り入れています。この制度により一定の効果は上がっているものと思われます」
このように木野弁護士は説明する。だが、高齢者講習制度には問題点もあるという。
「現行の高齢者講習制度は、『落とすための試験』ではなく、『注意を促すための講習』に過ぎません。
講習には、座学や動体視力検査、夜間視力検査、実車走行などがあります。講習の結果、『動体視力が低下していますよ』『試験なら不合格ですよ。慎重に運転してくださいね』などのアドバイスを行い、ドライバーに注意を促すことが目的です。
しかし、運転免許取得の試験では、『本来は不合格だけど慎重に運転してください』と言って合格させるでしょうか? そうではないと思います。
自動車という『鉄の塊』で公道を走行する以上、安全運転に必要な判断能力や運転技能を持ち合わせていない人には免許を与えない、というのが免許制度のはずです。
厳しいことを言うようですが、現在の高齢者講習制度は不十分ではないかと、私は考えます。
●自主返納を進めるためには?
では、どのような施策が求められるのだろうか?
「安全運転が確保できる『判断能力及び運転技能』が認められない方には『免許の更新を認めない』という制度が必要ではないでしょうか。
そして、運転免許の更新が厳しいことが広く認知されれば、自ずと自主返納も進むと思われます。
このような意見については、『地方では自動車がなければ生活できない』『都市部でも公共交通機関は利用しにくい』という声も聞かれます。
しかし、そこは、国や自治体が責任を持って、自動車がなくても生活可能なインフラを整備すべきです。一部の自治体で採用されているコミュニティバスや欧米などで普及が進んでいるLRT(低床式路面電車)の整備などの可能性を探るべきではないでしょうか」
木野弁護士はこのように指摘した。