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いじめの経験「美談」にしなくていい 紆余曲折を経て弁護士に、悔しさは今も
菅野弁護士

いじめの経験「美談」にしなくていい 紆余曲折を経て弁護士に、悔しさは今も

中高生時代に受けたいじめがきっかけで、うつと摂食障害を発症。その後大学受験も就職試験も、本領を発揮できないまま不完全燃焼で終わってしまったという菅野朋子弁護士。

体調が良くなってきた28歳の時、自分の力を試すため「日本で一番難しい試験を受けよう」と司法試験受験を決意。それは「初めて自分で選んだ道」でもありました。

5度目の挑戦で晴れて弁護士になり、今年で9年目。今も「完璧じゃなくていい」「ダメなところがあるのが自分と思うと楽になる」と折り合いをつけながら、日々過ごしていると言います。

●泣く泣く転校した高校2年

ーー中高生時代にいじめを受けた

小中高一貫の私立校に通っていました。中3の終わり頃からクラスの中で無視されるようになり、高校に上がっていじめはより酷くなりました。高校からの入学者はいないため、人間関係はほとんど変わらなかったんです。

クラスだけでなく、部活動でも嫌がらせを受けました。私は高校で中学時代と違うクラブに入ったのですが、勝手が分からないなか、無理やり推薦で部長にさせられて。何かできないことがあると、皆の前で追及されました。

ーー当時、学校を休むことは考えましたか

学校を休みたいという感覚は全くありませんでした。「行くものだ」「嫌だと思っても行くもの」という意識が強く、当たり前のように通っていました。でもとにかく辛くて。

高2の終わり頃、ある日突然学校に行けなくなり、それから学校に行きたくなくなりました。休むことが多くなって、試験だけ受けたり、保健室に行ったりしていました。けれど、それでも単位が足りず進級できないことが決まって。

自分が行きたい学校だったので、そう簡単に辞めたくないと思っていたんです。ですが、色々考えて、泣く泣く転校することを選びました。

●司法試験はリベンジだった

ーー転校してからの日々はどうでしたか

別の私立高に転校していじめからは解放されましたが、精神面はなかなか良くなりませんでした。いじめがきっかけで、うつと摂食障害を発症していたんです。私の場合、過食に陥って、どんどん食べてしまったんですね。とにかく卒業するため、なんとか行っていました。

行きたい大学もあったのですが、受験勉強ができる体調ではありませんでした。幸い学校の成績は良かったので、指定校推薦で大学に進学しました。

ーー大学に入ってからは、体調は回復したのでしょうか

いえ、大学に入っても、状況はあまりよくなりませんでした。友人はいましたが、何より「行きたい大学に行けなかった」という思いを引きずっていました。「いじめのせいでこうなってしまった。自分は悪くないのに」と悔しかったですね。多少薄らぎましたが、この気持ちは今でもあります。

就職試験も受けられませんでした。紹介してもらった会社の入社試験を受けようとしたのですが、直前で怖くなって行けなくなってしまって。それで大学卒業してから当時交際していた人と結婚して、専業主婦になりました。

ーー大学時代は、弁護士になりたいとは考えていなかったのですね

そうです。妊娠中、「何かやりたい」という気持ちがようやく戻ってきたんです。いじめがきっかけとなり、大学受験も諦め、就職もできませんでした。自分の力を試すために「日本で一番難しい試験」に挑戦して、これまでのリベンジをしようと思ったんです。

出産後は子どもを保育園に預け、両親のサポートも受けながら、予備校に通いました。挑戦することは楽しかったです。それまで仕方なく選択してきたことばかりで、初めて自分で選んだ道だったからでしょうね。

とは言え、落ちるとお先真っ暗というか、絶望的な気持ちになりました。1カ月は立ち直れませんでした。8年かけ5度目の受験で合格したのですが、合格発表に連れて行った息子は小学3年になっていました。

●「今もつらいと思うのは当たり前」

ーー中高時代を振り返って、今思うことはありますか。

親や先生など、誰かに相談すれば良かったけれど、当時はそれができませんでした。自分を責める訳ではないですが、そこまで学校にしがみつかなくても良かったと今になって思います。

私は当時いじめられたり仲間外れにされたりすることは恥ずかしいと感じていました。でも、そうじゃない。悪いのはいじめる側であって、恥ずかしいことではないし、誰かを頼っていいんです。

もう1つ、学校以外のコミュニティを作っておけば良かったとも思います。学校でいじめられると、自分が全否定されたような気持ちになります。でも趣味や習い事など、他の人と接点をもてる居場所があると救われるだろうと思います。

ーーいじめによりPTSDの後遺症を負っている人が多くいます。自分の心とどう向き合えばいいのでしょうか。

いじめを経験すると、「つらい経験を克服したからこそ、今の自分がある」と美談に仕立てる雰囲気があるように感じています。つらい思いをバネにして立派になることが賞賛されると、克服することを目指してしまいがち。ですが、克服だけが全てではありません。

私は今も通っていた学校の近くに行くと、少し動悸がします。つらい思いをしたのなら、今もつらいと思うのは当たり前。完璧じゃないからこそ、うまく折り合いをつけて生きて行く。ダメなところもあるのが自分と思うと楽になります。

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(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

菅野 朋子
菅野 朋子(かんの ともこ)弁護士 渋谷リヒト法律事務所
2009年9月弁護士登録。企業内弁護士、法律事務所勤務を経て2011年に独立。離婚・相続を数多く扱う。「モーニングショー」「ニュースリーダー」コメンテーターなどメディア出演や講演も多数。大学生の母。

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