橋下徹大阪市長が実現を目指している「大阪都構想」。現在の大阪市・堺市を解体して、東京23区のような「特別自治区」(大阪市域は5~7つ)に再編し、市の重要な機能を府に統合しようというものだ。府と市の二重行政の無駄を省き、産業基盤を整備して大阪の再生を図ることを目指している。
昨年8月には、国会で「大都市地域特別区設置法」が成立し、これによって、東京都以外の道府県でも総務大臣が認可をすれば「特別区」を新設できるようになった。ただし、いまの道府県名を「都」に変更できるというわけではないようだ。
このような中、今年4月、大阪市役所で、市を再編して新設する「特別区」の区割りなど制度設計を担当する「大都市局」が発足した。橋下市長が「大阪都」を実現するには、この後どのようなハードルをクリアする必要があるのだろうか。
●「実現への険しい道のりは、スタートラインに立ったばかり」
「大阪維新の会」政治塾で受講する今枝仁弁護士は次のように説明する。
「行政規模が大きすぎる大都市を、住民サービスを充実させやすい人口30万人規模の特別区に再編します。そうすることで、特別区は独自の税収財源を持ち、民主的基盤を持つ公選の区長が統治し、区議会がそれをチェックする体制になります」
では、クリアすべき課題はあるのだろうか。
「大都市の中では、行政・商業・工業地区や住宅地などの機能分化が進んでおり、特別区ごとによる住民層、企業数、行政サービス需要の違いや税収の格差は、かなり大きくなると予想されます。
ですから、良質な行政サービスを住民に効率的に広くもたらすためには、透明性が高く公平な財政調整制度の構築が重要な課題となるでしょう。
また、手続きの流れでは、道府県と特別区の事務分担・税源配分・財政調整のうち、政府が法制上の措置等を講じる必要があるものについては、総務大臣と協議しなければなりません。特別区の独創性や自立性の確保と、国家的な統一政策との調整も課題でしょう。
大阪維新の会が掲げる『自立する個人、自立する地域、自立する国家』の実現への険しい道のりは、スタートラインに立ったばかりです」
●「実態は、大阪市・堺市廃止分割構想で、府知事への権力集中だ」
一方、立命館大学の村上弘教授は「大阪『都』という名称は魅力的ですが、実際は、大阪府の名前はそのままです」と水をさす。
「廃止した大阪・堺両市(政令市)が持つ国との直接交渉権や、重要な権限・財源を府が吸収し、基礎的な機能だけを、新設する特別区に移すという『大阪市・堺市廃止分割構想』なのです。
デメリットは、政令市という『政策エンジン』の廃止によって、大阪全体の政策力が下がり、諸施設など府市の便利な『二重行政』も削減されることになります。橋下氏の狙いは、府知事への権力集中や、大阪市の所有地の獲得・売却にもあるようです」
このように反対意見を述べる村上教授によると、「二重行政の整理や成長戦略は、京都などでやっているように、府市の協議で進めればよい」という。また、橋下市長の前には、「(1)制度設計、(2)市議会での議決、(3)住民投票という3つのハードルがある」と話す。
「(1)では、区の数、規模、区の著しい税収格差を埋める財政調整などが難問ですが、どう設計しても公務員は何とか仕事をするでしょう。(2)は、維新の会に加えて公明の賛成が必要です。
(3)は、大阪は『都』にはならないこと、政令市が廃止されることのメリットとデメリットなどの正しい情報が住民に伝えられるか、そして住民が大阪市や堺市に愛着があるか、がポイントです。2011年の市長選挙で4割の票を得た反対派との論戦が、期待されます」
橋下市長が目標とする2015年4月まで2年を切ったが、最終的には住民たちのためになるように、賛成派と反対派によるしっかりとした議論の場が求められている。
【取材協力弁護士】
今枝 仁(いまえだ・じん)弁護士
今枝仁法律事務所 代表弁護士 元東京地方検察庁検察官検事
公益社団法人広島被害者支援センター監事,特定非営利活動法人ロースクール奨学金広島理事,広島法務局評価委員会元委員長
事務所名:今枝仁法律事務所
事務所URL:http://imajin.jp/
【取材協力】
村上 弘(むらかみ・ひろし)立命館大学法学部教授(行政学・地方自治論)
共編書に『よくわかる行政学』、『大阪都構想Q&Aと資料』など、論文に「民主党―2012年衆議院選挙と2大政党制」
(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/12-56/murakami.pdf)など。