福岡県は来年度から、暴力団をぬけた「離脱者」の社会復帰を促すために、元組員を雇用した企業に対して、1人あたり最大72万円を給付する制度をはじめる方針だ。
福岡県では、市民を巻き込むような暴力団同士の抗争がたびたび報じられてきた。県警によると、特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップなどが逮捕されて以降、足を洗う組員が急増している。昨年1年間、県警に離脱を申し出た人は127人で、過去最高だったという。
だが、元組員は報復をおそれて地元で就職できなかったり、企業側が採用を敬遠しがちだったりすることなどから、就労率はかんばしくないようだ。県警は、暴力団の組織弱体化のためにも、新たな雇用給付金制度で、離脱者が就職できる受け皿を拡大させたい考えだ。
新しい制度では、元組員を雇用した企業に対し、1人あたり最大計72万円を支給する。また、元組員がトラブルが起こした場合、その損害に応じて、最大200万円の見舞金を雇用主に支払う。ほかにも、15都府県と連携をとって、県外の受入先拡大やアフターフォローもおこなっていくという。
これまでも、暴力団をぬけた人たちは数多くいたが、こうした人たちが社会の一員として復帰していくためには、どのような課題があるのだろうか。離脱者支援にくわしい村田純一弁護士に聞いた。
●「社会復帰する気持ちがあっても、その方法がわからない」
「暴力団を離脱した人たちの社会復帰は、簡単ではないのが現状です。
原因をいくつか挙げますと、まず、離脱者を受け入れる事業者が、圧倒的に少ないという点があります。各都道府県には、離脱者の社会復帰を目的とした『社会復帰協議会』がありますが、実際に元暴力団員を雇う会社は限られています。
つぎに、支援情報が知られていないことがあります。暴対法にも、暴力追放運動推進センター(暴追センター)の事務として、『離脱者支援』が明記されています。十分とは言いがたいですが、これまでも支援制度はありました。
しかし、多くの(元)組員はそうした支援制度が存在していることを知りません。たとえ、組から脱退して社会復帰をしようという気持ちがあっても、その方法がわからないということが多いのです。
また、地元で社会復帰することが難しいという問題も挙げられます。組からの脱退そのものについては、警察などが必要な協力をおこないますので、そのように脱退した人に報復がされるケースは余りないように思います。
しかし、離脱後、地元で社会復帰(就職)をすることになれば、暴力団時代の人間関係が切れなかったり、経歴が知られているために働きづらかったりします。ほかの地域で就職するのがベストということになりますが、一般人でも地縁のないところでの求職は難しいですから、非常に厳しい状況になります。
ほかにも、就職できたとしても、すぐにやめてしまうなど、社会復帰が頓挫するケースがありますし、偽装離脱の問題もあります」
●「問題を起こすことなく働き続けるケースは、案外多い」
「対策としては、受入先企業の拡大が急務です。
たしかに、そう容易ではありませんが、元暴力団員が離脱後、問題を起こすことなく働き続けるというケースは、案外多いです。また実際に、長年にわたって、元暴力団員を積極的に受け入れている企業はあります。
そういった成功例の存在を広く知ってもらったうえで、今回の福岡県のように、受入先企業に対する支援制度を拡充すれば、受入先はさらに増えるはずです。
また、全国的な連携も必要です。すでに関係機関によって努力されてはいますが、全国暴追センターや各地の暴追センター間の連携を強化して、離脱者が別の地域で容易に就職できるよう体制を整えるべきでしょう。
暴力団員は、もともと社会から疎外している存在ですから、定着を確実にするには、離脱後のサポートも必要です」