大阪のミスタードーナツ「豊中駅前店」で3月下旬、高濃度の塩素の入った水が誤って提供され、その水を飲んだ客が体調不良を訴えるという問題が起きた。ミスタードーナツのホームページによると、殺菌用の漂白剤が混入した飲み水を誤って提供したという。
飲食店で働いたことがある人なら、仕事中に不注意からミスを犯し、客に迷惑をかけてしまった経験があるかもしれない。配膳している時に、飲みものを客の衣服にこぼしてしまったり、料理を別のテーブルに提供してしまったりなどだ。
では、飲食店のサービスで、客の健康に被害が出るかもしれない危険なミスを犯した場合、従業員や飲食店はどのような法的な責任を問われるのだろうか。足立敬太弁護士に聞いた。
●危険なミスを犯した従業員は、業務上過失傷害罪に問われる可能性も
足立弁護士は「主な法的責任として、行政上の責任、刑事責任、民事責任が考えられます」と指摘する。「行政上の責任として、飲食店に対して、保健所がおこなう営業停止処分が課せられる可能性があります」
たとえば、食中毒を起こした飲食店に対する営業停止処分などがこれにあたるそうだ。つぎに、足立弁護士は刑事責任について説明する。
「刑事上の責任としては、業務上過失傷害罪(刑法211条)の成立が問題になります。刑事責任が追及される対象は従業員(個人)だけで、飲食店(法人)は対象外です。業務上過失傷害罪で有罪になった場合の法定刑の範囲は、1ヶ月以上5年以下の懲役・禁錮、または1万円以上100万円以下の罰金となります。
このケースでは、幸いにして死者が出なかったこともあり、被害者も限られ、健康被害も限定的であることを考えると、被害弁償をきちんと行えば、罰金程度で済む可能性や不起訴で終わる可能性もあります」
●損害賠償などの民事責任は、従業員だけでなく、飲食店も問われる
危険なミスを犯した飲食店の従業員は、業務上過失傷害罪を問われる可能性があるということだ。では、民事責任はどうなるのだろうか。
「民事上の責任としては、損害賠償責任の有無や、その内容が問題になります。民事責任追及の対象は従業員だけでなく、飲食店も含まれます。内容としては、入院や通院にかかった費用や慰謝料、仕事を休んだ方には休業補償などが考えられます。
企業イメージの問題もありますし、先ほど述べた刑事責任の帰趨(きすう)にも関わりますので、迅速かつ誠実な対応が求められます」
今回のケースでは、ミスタードーナツは保健所からの指導を含め、再発防止につとめるということだが、同じような危険なミスをしたら、店だけではなく従業員個人も責任をとらなければならない場合もあるので、注意が必要だ。