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「流産した君には配慮する必要がない」と人事部に言われたーー「マタハラ」最新事情
渥美由喜さん(左)、小酒部さやかさん(中)、圷由美子弁護士(右)

「流産した君には配慮する必要がない」と人事部に言われたーー「マタハラ」最新事情

米国務省から3月上旬、日本人として初めて、女性の地位向上への貢献をたたえる賞「世界の勇気ある女性10人」を贈られた小酒部さやかさん(37)。2014年に設立された「マタハラNet(マタニティハラスメント対策ネットワーク)」の代表を務め、「マタハラ」の啓蒙や情報発信に取り組んでいる。

その小酒部さんが3月30日、東京・霞ヶ関の厚労省記者クラブで「2015年マタハラ白書」発表の記者会見をおこなった。会見には、白書を監修したダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜さんも同席した。

小酒部さんは「マタハラは伝染病という言い方もできます。同僚が被害にあったのをみて『私もやられるな』と他の社員も思えば、(辞職理由をマタハラと言わずに)黙って辞めていってしまいます」と話し、企業に対して真剣な取り組みを求めた。

●マタハラがはびこる「2大要因」とは?

マタハラNetは今年1月、マタハラの被害にあった女性186人にインターネットでアンケート調査をおこない、その結果を「2015年マタハラ白書」にまとめた。

回答した女性は、正社員が約70%、非正規社員が約30%だった。

小酒部さんは「マタハラは中小企業で起きているイメージが強いかと思いますが、実際は大企業にもあります。回答が寄せられた約19%は上場企業からの事例でした」と明かす。

「私たちは、マタハラが日本社会ではびこる理由は2つある、と考えています。1つは『性別役割分業意識』、もう1つが『長時間労働』です。今回の調査結果では、有給休暇もとれずに休めなかったり、残業が当たり前の長時間労働状態の組織が、マタハラをうんでいることがはっきりとわかります」

実際、アンケート調査では、回答者の約38%が「残業が当たり前で1日8時間以上の勤務が多い」と答え、約6%が「深夜に及ぶ残業多い働き方」と、長時間労働に言及する人が少なくなかった。

また、連日の残業はもちろん、「毎年1〜2日くらいしか有給休暇を取得できない」、「1度も取得したことがない」人が4割を超えるような余裕のない労働環境では、他人に配慮する余裕がなくなっても不思議ではない。

●なぜ加害者に「女性の同僚」が多いのか

調査結果で注目すべきことの1つとして、加害者の属性に「女性」や「人事部」があることが浮き彫りになった点が指摘できる。

「マタハラ加害者で一番多いのは『直属男性上司』(約30%)ですが、人事部も約13%います。そして『マタハラをする同僚』をみると、男性5.2%に対し、女性は10.3%にもなります。

怪我や病気とは違って、『妊娠は自己責任』とみられがちで、日本の組織では『仕事に穴をあけるのがもっとも悪い』との見方があることも要因かと思います。

また、妊娠出産を経験した女性が、『私にはできたのに、なぜあなたはできないの?』と見てしまうこともあります。親御さんが近くに住んでいるなどのリソースによっても、女性が置かれた状況は本来違っているのですが」

この他にも、人事部から「流産した君には、配慮する必要がない」と言われたケースや、妊娠をきっかけに女性の同僚から無視されたり、大事なことを自分に伝えてもらえないなどの嫌がらせを受けたケースもあったという。

●「間違った配慮上司」にも問題あり

では、職場ではどんな対応が求められているのか。企業のワークライフバランスやダイバーシティに詳しいコンサルタントの渥美由喜さんは、一見「子育て女性に優しい」と見られがちな「過剰な配慮をする上司」にも問題があると指摘した。

「マタハラ上司の対極にいるのが『間違った配慮上司』です。夫や子供のいる女性は、重要な仕事から外したほうがいい、家庭を持つ女性が夜遅くまで残業するのは気の毒だ、として、重要な仕事を任せないのです。女性に優しいように見えますが、実際には、昇進や昇格からほど遠い『マミートラック』にのせることでもある」

また、子育てとの両立やイクメンが求められる風潮の中で、逆に「ファミハラ(ファミリーハラスメント)」が増加していることに危惧をもっているそうだ。

「マタハラだけではなく、イクメン予備軍や介護をする人へのハラスメント、つまり『ファミハラ』が増えていると思う。これは、(新しい価値観に)馴染めない人たちがいて、政府が求める方向性との軋轢(あつれき)が深まっているからではないか」

妊娠出産適齢期の女性だけの問題でなく、本来は介護や育児の当事者であるはずの男性にとっても、「労働環境の改善」はメリットが大きいはずだ。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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