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通勤電車で周囲をあぜんとさせる「生着替え男」 他の乗客は「我慢」するしかない?
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通勤電車で周囲をあぜんとさせる「生着替え男」 他の乗客は「我慢」するしかない?

大勢の人々で混み合う通勤電車の中では、携帯電話の通話禁止のような明文化されたルールはもちろん、お互いに不快な気分をしないために、さまざまな「暗黙の了解事項」に注意を払う必要がある。しかし、東京都内のIT企業に通う女性会社員のD子さんは、都営地下鉄の車内で、こうしたルールを公然と無視する自由人に遭遇してしまった。

●地下鉄の車内で「生着替え」する男

ある日、いつもより早い時間帯に電車に乗り込んだD子さん。ほどほどに混み合う車内でスマホを眺めていると、しばらくして異様な空気を察知した。周りの乗客たちの視線の先には、着古した感じの白いタンクトップ(下着)に、黒のスラックス、その出で立ちはまるでブルース・リーという30代半ばくらいの男がいたのだ。

よく眺めると、色白の中肉中背の男は、優先席の前に立って、両手を伸ばしながら身体のストレッチをしているようだ。優先席に座る近くの乗客たちは皆、かかわりを避けるかのように目を閉じるなど固まった状態だ。

ストレッチを終えると、男は優先席に置いた自分のボストンバッグからワイシャツを取り出し、ガラスに映る自分の姿を確認しながら、ゆっくりとボタンをしめていく。冷たい視線に慣れているのだろうか。臆する様子はない。

ネクタイをしめようとする彼を尻目に、D子さんは下車した。しかし、その後も早朝出勤のため都営線を利用すると、あの日とほぼ同じ時間帯に、男がいるのだという。そして、あのときと同じように、ストレッチと着替えをしているのだ。

「性器の露出はないけれど、着替えを見せつけられるのは、とっても不快です。そもそも、あそこまでの自由人は、次に何をするのかわからない恐ろしさがあります。彼にやめさせる術はないのでしょうか?」

D子さんは忌々しげにこう語るのだが、何か取りうる手段はあるのだろうか。

●「下品でみだらな動作」に該当する恐れ

「刑事、民事それぞれの観点から問題が指摘できます」と指摘するのは、中島宏樹弁護士だ。まず、刑事事件としては、どんな法律が関係してくるのか。

「都道府県単位で制定されている迷惑防止条例では、人に対し、公共の乗り物において、人を著しく羞恥させたり、人に不安を覚えさせるような卑猥な言動(社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語または動作)が、処罰の対象とされています。

地下鉄という『公共の乗り物』内で、タンクトップ(下着)一枚になって生着替えを行うことは、他の乗客を著しく羞恥させる、下品でみだらな動作に該当するものとして、迷惑防止条例に抵触する恐れがあります。

たとえば、女性が住む東京都の迷惑防止条例では、その場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることになります」

●「生着替え男」にどんな請求ができる?

次に、民事については、どんな請求が可能だろうか。

「故意または過失によって他人の権利を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。

今回のようなケースでは、望んでいないのに『生着替え』を目撃させられた乗客に精神的損害が出ていますから、乗客が生着替え男に対して損害賠償を請求できるかもしれません」

中島弁護士は、最後にこう話した。

「いずれにしても、地下鉄の車内は、自宅ではなく、公共の場であることを踏まえ、節度ある行動が求められると思います」

冒頭のD子さんに中島弁護士の解説を伝えると、「これまで目をそらしたり、彼らしき人がいたら車両を変えるようにしていましたが、これからは睨み付けるなど、毅然と不快感を伝え、それでも解決しなければ駅員に相談したい」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中島 宏樹
中島 宏樹(なかじま ひろき)弁護士 中島宏樹法律事務所
京都弁護士会所属。弁護士法人大江橋法律事務所、法テラス広島法律事務所、弁護士法人京阪藤和法律事務所京都事務所を経て、平成30年7月、中島宏樹法律事務所を開設。民暴・非弁取締委員会(委員長)、弁護士法23条照会審査室、日本弁護士連合会「貧困問題対策本部」委員。

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