1896年(明治29年)の制定以来、初めての抜本的な改正が検討されている民法の債権分野のルール。法案は3月下旬にも国会に提出される見込みだ。改正案の要綱はすでに公表されているが、その中に、「もう飲み屋のツケから逃れられなくなる?」として注目を集めている項目がある。
それは「消滅時効」といわれるルールだ。これまでは、飲み屋の未払い金(ツケ)は1年たつと、支払義務が消滅してしまうという美味しい特典があったのだが、それが5年に延長されてしまうのだという。また、弁護士に依頼したときの費用も、従来は2年で請求されなくなったのが、やはり5年に延びることになったという。
●消滅時効は「権利を行使できることを知ったときから5年」に統一
そもそも民法には、「借金を返せ」などの請求ができる「債権」は、権利が行使できるときから10年で時効がきて消滅するというルールがある。しかし、飲み屋や弁護士や医者など、特定の業種については、原則よりも短い消滅時効が設けられている。これを「短期消滅時効」と呼んでいるのだ。
しかし、短期消滅時効は業種ごとに1年~5年とバラバラで、その理由も説得的ではないため、同じ年数に統一したほうがいいという意見が強かった。今回の法改正によって、ようやく「短期」消滅時効が廃止され、その時効は「権利を行使できることを知ったときから5年」に統一されることになった。
ただ、権利を行使できると後から知った場合のために「権利行使ができるとき(未払い金が発生して)から10年」というこれまでの規定も残される予定だ。その結果、飲み屋のツケの消滅時効は、1年から5年に延びることになり、いままでのようにツケを払わずに済ませるのが難しくなった、というわけだ。
しかしそれでも、「なんとかツケを払わずに逃げ切ろう」という輩はいるだろう。彼らにはどんな対応がとれるのか?
●権利の上に眠るものは保護に値せず
支払わないまま、時効まで逃げ切ろうとする不届き者に対して、まず、何をするべきか。
「時効を中断する、つまり、時効期間をリセットする必要があります」
そう指摘するのは、借金をめぐるトラブルにも積極的に取り組む加藤英典弁護士だ。時効を中断するためには、書面や電話などで督促すれば良いのだろうか?
「よく誤解されていますが、裁判以外の請求方法では、暫定的な時効中断しかできません。電話や書面で支払を繰り返し求めても、それだけでは時効が完成してしまうのです」
しかし、「少額の請求のために裁判を起こすのは億劫だ」と感じる人も多そうだ。
「時効を中断するのにもっとも確実な方法は、法的手続をとることです。『わざわざ裁判をするのは大変ではないか』と思われるかもしれませんが、『権利の上に眠るものは保護に値せず』という法格言があります。
時効が完成するまでの間、法的手続をとることなく権利を放置していたのであれば、権利を失うという不利益を被ることになってもやむを得ないと考えられています」
新しい消滅時効のルールは、今国会で民法改正が実現すれば、2018年をめどに施行される見込みだ。ルールが変わっても、「金を貸したのだから返してもらって当然」と権利の上にあぐらをかかず、いざというときには、手間を惜しまない姿勢が必要なのは変わらないのだろう。