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国際離婚で起きる「子どもの連れ去り」――ハーグ条約が定める「返還ルール」とは?
最近は国際結婚も珍しくない

国際離婚で起きる「子どもの連れ去り」――ハーグ条約が定める「返還ルール」とは?

国際結婚が破たんした際などに起きる「子の連れ去り」を解決するため、加盟国の間で結ばれた「ハーグ条約」。日本も条約を批准し、2014年4月に発効した。

そのハーグ条約に基づき、子どもがもともと住んでいた国(ハーグ条約加盟国)に返還されるケースが出てきている。外務省によると、2015年1月5日までに7件ある。内訳は、海外から日本に返還されたケースが5件、日本から海外に返還されたケースが2件だった。

海外からのケースでは、アメリカ・スイス・イギリス・香港・スペインから日本へ、それぞれ子どもが返還された。日本からは、ドイツとカナダへそれぞれ返還されたという。

このハーグ条約はどんなルールで、どんなときに「子どもが返還される」のだろうか。水内麻起子弁護士に聞いた。

●「子どもの利益を守る」目的

「ハーグ条約の基本的な考え方は、次のような内容です。

(1)子の不法な連れ去り等は子の利益に反する。

(2)誰が子を世話するのかは、子がもともと住んでいた国で決めるべきである」

国境を越えた連れ去りは、人間関係や言語、文化などの点で、子どもの生活環境を大きく変えてしまう。国際離婚などの際に子どもが過剰に振り回されないよう、子どもを両親のどちらが育てるかといった問題を、もともと住んでいた国で決着を付ける、という考え方になっているわけだ。

ところで、「不法な連れ去り」というのは、どういう意味なのだろうか?

「子どもを養育する権利である『監護権』を持つ親の同意を得ないまま、16歳未満の子どもを連れ去ることです。たとえば、国際結婚が破たんした際に、片方の親が勝手に子どもを自国に連れ帰ってしまうようなケースですね。

また、子連れで帰省した後、元の国に子どもを戻すのを片方の親が拒否するような『不法な留置』のケースも、条約の対象となります。

こうした場合、子をもともと居住していた国に、迅速に返還するというのが、ハーグ条約の原則なのです」

●「担当窓口」は外務省

では、ハーグ条約に基づいて、子どもを取り戻したいという場合、どこに申請すればいいのだろうか。

「ハーグ条約に基づいて子の返還を求めたい場合には、要件をみたしていれば、それぞれの国で定められた『中央当局』の援助を得て、子どもを連れ去った側と返還交渉をすることが可能です。日本では、外務大臣が中央当局とされています。そこで、外務省が返還申請等の担当窓口になっています。

日本の外務省と相手国の中央当局が連携して、当事者間での解決が目指されます。東京の三弁護士会などのADR(裁判外紛争解決手続)機関を利用して、協議のあっせんをしてもらって話しあうこともできます。

もし、この交渉がうまくいかない場合、子どもが現在いる国の裁判所に申立てて、その判断に従うことになります。ADR機関を利用した協議のあっせんを経ずに、直接裁判所に返還申立をすることもできます。子の返還の裁判手続は、日本だと東京家裁と大阪家裁が集中的に扱っています」

裁判をすれば、必ず元の国に戻されるのだろうか?

「監護権侵害があることや、子が16歳未満であることなどの要件を満たせば、返還されるのが原則です。

しかし、返還することによって、子どもがかえって危険な状態になる場合や、子の年齢や発達の程度に照らして、子の意見を考慮するのが適当な場合で、子が元いた国に返還されることを拒んでいるときなどには、裁判所が返還を命じないこともあります。

返還の実例については、今後の裁判の蓄積を待つ必要があるといえます」

水内弁護士はこのように指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

水内 麻起子
水内 麻起子(みずうち まきこ)弁護士 みもざ法律事務所
埼玉弁護士会所属 国内案件のほか、国際的な離婚案件・子との面会交流、子の連れ去りなどの子の問題・相続の案件を積極的に取り扱っている。弁護士会の委員会活動などを通じて、高齢者・外国人の人権問題にも取り組んでいる。

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