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「牛の生レバー」提供で焼肉店経営者ら逮捕、客が「自己責任」で注文しても罪になる?
厚労省は、ホームページで牛レバーの生食をやめるように呼びかけるチラシを配布している

「牛の生レバー」提供で焼肉店経営者ら逮捕、客が「自己責任」で注文しても罪になる?

提供が禁止されている牛の「生レバー」を客に出したとして、京都市東山区の焼き肉店の経営者ら4人が10月下旬、食品衛生法違反の疑いで京都府警に逮捕された。

報道によると、経営者らは8月上旬、客の男女2人に「生レバーありますよ」と持ちかけ、提供した疑いが持たれている。同店では、安心できる客だと分かると、「裏メニュー表」を取り出し、生レバーなどを提供していたという。経営者は警察に「客からの要望も多く、店の方針として提供していた」と供述していると報じられた。

厚生労働省は2012年から、牛レバーを生食用として販売・提供することを禁止している。しかし、その味を忘れられない人のなかには、「自己責任でいいから食べたい」と考える人がいるかもしれない。もし、客が危険を承知のうえで、生レバーを求めた場合でも、要望に応じた店は罪に問われてしまうのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。

●客がリスクを承知していても、提供すれば違法

「食品衛生法では、厚生労働大臣が調理方法などについて基準を定めた食品について、その基準に合わない方法による加工や販売をしてはならないと定められています(同法11条2項)。今回の焼肉店は、このルールに違反したことになります」

好川弁護士はこう切り出した。どうしてそんなルールがあるのだろうか。

「もともと食品衛生法は、危険な食品を口にした一人ひとりの被害者保護を直接の目的とするというよりも、国民全体の公衆衛生の確保や、全体としての国民の健康の保護を目的としたルールです。

ですから、客側が『自己責任でいいから』とリスクを承知していたからといっても、店側が禁止されている食品を提供・販売すれば、違法となります」

個人の「自己責任」というわけにはいかないようだ。

●客が本当にリスクを承知しているのか怪しい

さらに、好川弁護士は「客が本当に生レバーのリスクを承知したうえで注文しているのか怪しい」と疑問を投げかける。

「今回問題となった『牛の生レバー』の提供・販売が規制された背景には、

(1)牛の肝臓の内部から腸管出血性大腸菌(O157)が検出された

(2)生で食べると、十分に衛生管理を行った新鮮なものでも、食中毒が発生するおそれがある

(3)牛の約1割が保菌し、現段階では保菌の有無の有効な確認方法がない

(4)消毒液による洗浄方法等の有効な予防対策がない

(5)腸管出血性大腸菌は、ほんのわずかな菌で脳症など重篤な疾患を発症し、発症者の死亡率も低くない

(6)人から人への二次感染の危険性もある

という理由があります。

さすがに、生レバーを注文する客が『死んでもいい』『重い病気になってもいい』と考えているとは思えません。当然、『店が提供するものだから安全だろう』と思って注文するでしょう。このような状況を放置していると、重大な事故につながるおそれがあります」

●逮捕は「行き過ぎ」なのか?

一方で、ネット上に「逮捕は行き過ぎだ」という意見もある。どう捉えるべきだろうか。

「個々の事案によると思いますが、食品衛生法違反は、『2年以下の懲役または200万円以下の罰金(情状により併科)』、法人には『1億円以下の罰金』が科せられる軽いとは言えない犯罪です。

また、今回の事件では、(a)店側が積極的に『生レバーありますよ』と客側に持ち掛けていた(b)店全体として組織的に違法営業を行っていた(c)そのため、いずれ重大事故につながる可能性が高いことなどを考慮すると、やむを得ない判断ではないかと思います」

好川弁護士はこのように説明していた。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

好川 久治
好川 久治(よしかわ ひさじ)弁護士 ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。

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