客からの理不尽な要求や暴言、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)。
弁護士ドットコムニュースが読者に体験談を募ったところ、スーパーや飲食店、警備の現場などで働く人たちから、切実な声が寄せられた。
客に怒鳴られ、長時間にわたって対応を迫られる。軽くぶつかっただけなのに、診断書を突きつけられ、謝罪だけでなく金銭まで渡すことになった──。
現場で働く人たちが、理不尽な対応を強いられている実態が浮かび上がった。
一方で、客の立場からは、正当な苦情まで「カスハラ」として退けられることを心配する声もあった。
●軽くぶつかっただけで診断書、謝罪に金一封まで
奈良県の50代女性は、スーパー内のパン屋で働いていたときの経験を明かした。
トレイを補充しようとした際、客の背中に軽くぶつかってしまった。すぐに謝罪したものの、客は激怒したという。
「お前何、ヘラヘラ謝ってんねん、人にぶつかるのがそんなに面白いのか」
客は「上の者を出せ」と要求し、1時間以上にわたって騒ぎ続けた。店側は客の買い物代を負担し、タクシーで送りとどけたという。
それでも収まらなかった。客は後日、「打撲全治1週間」と書かれた診断書を出してきた。
女性は本部の課長らとともに改めて謝罪し、金一封まで渡すことになったという。
女性は、このような客の行為が「罪に問えるのでしょうか」と疑問を投げかけている。
●「こっちは客だぞ」店のルールを守ろうとして怒鳴られた
東京都足立区の50代女性は、コロナ禍にスーパーで働いていた際、客の家族から怒鳴られたという。
当時、店では会計を1人でするよう求めていた。女性がそのルールを案内すると、男性は「こんなおばあちゃん一人で会計させるのかよ」と声を荒げた。
「上司を呼べ、こっちは客だぞ。あの女にコロナ扱いされた。どうしてくれるんだ」
結局、上司が謝罪したという。
女性は「店が作ったルールでさえも、こちらが悪いとされるのはいかがなものか。店側も、ただ謝るだけでなく、毅然と対応してもらいたかった」と振り返る。
神奈川県の30代女性が働く飲食店には、会計時に「財布を忘れたからおろしに行く」と言ったまま戻ってこない常連客がいたという。
店側がこうした行為をやめるよう伝えたところ、客は本社にクレームを入れたそうだ。
また、神奈川県の40代男性は、従業員が1人しかいない店舗で接客をしている。なかには3時間も店に居続ける客がいるという。
「買うそぶりをするから相手しますが、さすがにメンタルやられています」
店側の対応は、防犯カメラやカスハラに関する案内の設置にとどまっているといい、「やれる対策は各自でやるしかない状況です」と打ち明ける。
●「毎日怒鳴られてばかり」警備員の悲痛な声
岐阜県の40代男性は、工事現場で交通誘導警備をしていた際、市民から「市役所、警察に連絡するぞ」などと言われたという。
東京都の30代男性も、警備員として働く中で、日常的に怒鳴られているという。
「毎日、ドライバーに怒られたり、怒鳴られたりしてばっかりです。駐車場の警備員をやっていれば、満車で入れないのに、『何で入れないんだよ』と怒鳴る運転手もいる。私がなんでこんな目にあわなきゃならないんでしょうか?」
北海道の30代女性は、アミューズメント施設で接客中、突然、背後から男性客に肩をつかまれたという。
「急に肩をガシッとつかまれて恐怖でした」
●「正当な苦情もカスハラに?」客の側から不安の声
一方、カスハラ対策が広がることで、客が正当な苦情を伝えにくくなるのではないかと心配する声もあった。
東京都の40代男性は、脳出血の後遺症で左半身にまひがあるという。
行きつけの居酒屋でトイレの汚れを注意された際、自身の身体障害と結びつけられ、「迷惑な客であると思われているように感じました」と振り返る。
男性は深く傷ついたものの、店に苦情を伝えること自体が「カスハラ」と受け取られるのではないかと考え、声を上げにくいと感じているという。
10月1日から、企業にカスハラ対策が義務付けられたことについて、男性はこう願う。
「店員と客のどちらか一方だけでなく、双方の尊厳を守る制度であってほしいと思います」
東京都の50代女性も、制度を盾に店側が客に嫌がらせをする「逆カスハラ」への対策を求めた。
また、大分県の60代女性は、約20年前、携帯電話会社の窓口で解約を求めた際、店員を怒鳴ってしまった経験を明かした。店員は泣き出してしまったといい、女性は当時を振り返り、「今だったら『カスハラ』認定されるよな〜と思う」と語る。
カスハラ対策を進めながら、双方の尊厳をどう守るのか。寄せられた体験談は、その難しさも浮かび上がらせている。