東京都が公式アプリを通じて1万1000円相当のポイントを配る「東京アプリ生活応援事業」(東京ポイント)。
ただ、受け取るにはスマートフォンで複数のアプリを操作する必要があり、高齢者を中心に申請を諦める人もいるという。
江戸川区議が開いた「申し込みお手伝い会」を訪ねると、次々と現れるカタカナ用語や複雑な手続きを前に、四苦八苦する高齢者たちの姿があった。
●手元にメールアドレスや「謎の数字」を書いたメモ
9月2日午前11時、東京都江戸川区の平井コミュニティ会館に、60歳を超える近隣住民がぽつぽつとやってきた。
参加者は、メールアドレスやパスワード、電話番号などを書き留めたメモ帳を手元に広げ、時折首をかしげながら、ボランティアに教わった通りにスマホの画面をタップしていく。
中には、何のためのものか忘れてしまったという数字の組み合わせが箇条書きされた紙切れを持参した人もいた。
●申請できたのは6人中3人「本当に助かった」
つまずく箇所は人によってバラバラだ。
アプリをダウンロードするための「Google Play」を開けない。登録したメールアドレスやパスワードを覚えていない。付与される東京ポイントと、実際に買い物などで使えるポイントの違いがわからない。スマホ端末のソフトウェアが対応しているのかもわからない。
さらに、マイナンバーカードを読み取れない。認証コードがどこに届き、どこに入力すればいいのかわからない。そもそも、複数のアプリを行き来しながら手続きを進めること自体が難しい──。
会場を借りていた時間を過ぎても作業は続き、参加者6人のうち、ポイントの交換までたどり着いたのは3人だった。
「本当に助かりました」
手続きを終えた参加者は、そう頭を下げ、帰っていった。
スマホと睨めっこする参加者と申請を手伝うボランティアら(2026年9月2日、東京都江戸川区で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●「このデバイスには対応していません」途中で断念する住民も
途中で断念した女性もいた。
マイナンバーを読み取るアプリをダウンロードしようとすると、スマホの画面に「このデバイスには対応していません」との表示が。
女性は東京アプリに個人情報を入力したところで手が止まった。
「現金でくれればいいのに」
そう言い残して、会場を後にした。
参加した別の女性も、手続きの難しさをうったえる。
「もうちょっと簡単にしてほしい。私の知り合いもみんな『やり方がわかんない』って言っています。ポイントがもらえたという知り合いは一人もいない」
一人暮らしの男性(68)は、都の事業のあり方そのものに疑問を投げかけた。
「東京ポイントをもらえること自体はいいなと思っていたが、手続きが難しいと、結局泣き寝入りみたいになってしまう。若い人じゃないと無理だよ。やり方がえげつない。高齢者は10人中9人は申請できないと思う」
参加者の女性がマイナンバーカードを読み取るためのアプリをダウンロードしようとしたところ、「お使いのデバイスはこのバージョンに対応していません」という表示が出た(2026年9月2日、東京都江戸川区で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●「難関を乗り越えた人しかもらえない苦行」
この日、ボランティアとして申請をサポートした男性は、東京ポイントの手続きを「難関を乗り越えた人しかもらえない苦行だ」と表現した。
区議のもとにインターンに来ている日本大学理工学部2年の安藤照悟さん(20)も、終了後、こう振り返った。
「スマホの使い方がそもそもわからない人がいます。申請できる人はできるが、できない人はとことんできない。人に優しくない今のやり方はどうなのかと思います」
参加した男性がようやくダウンロードできた「東京アプリ」の画面(2026年9月2日、東京都江戸川区で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●生活苦をうったえる住民に紹介「背に腹は代えられない」
「申し込みお手伝い会」を企画した江戸川区議の滝沢泰子さんによると、近隣に約2000枚のチラシを配り、この日を含む2回の開催で計20人ほどが訪れたという。
きっかけは、住民から寄せられた「アプリに登録したいけど、できないから手伝って」という一言だった。
東京都も都議会議事堂で対面の申請サポートを実施しているが、利用には電話での予約が必要だ。
「江戸川区からわざわざ新宿まで行けない人もいる。お手伝い会を開いてみて、こんなに困っている人がいるんだなと思いました。スマホやパソコンが苦手な人も排除しない、優しい行政にならないといけない。これでは一部の人しかもらえません」
参加した別の女性は、自治体の広報チラシを持参。東京ポイントと江戸川区の給付金が違うことを知らなかったようだった(2026年9月2日、東京都江戸川区で、弁護士ドットコムニュース撮影)
そう話す滝沢さん自身は、マイナンバーカードを持っておらず、東京ポイントも受け取っていない。この制度には反対の立場だ。
それでも、住民から生活苦について相談を受けることが珍しくない。そんなとき、東京ポイントの存在を伝えることがあるという。
「背に腹は代えられません」