自転車を運転していた際、警察官に呼び止められて「防犯登録の番号を見せて」と言われることがあります。
学校や会社からの帰宅途中やコンビニに向かっている最中など、ごくありふれた日常生活のなかで、突然警察官と関わるシーンが訪れるので、戸惑う方も多いでしょう。
警察による自転車の防犯登録チェックはどのような目的で行われる活動なのか、「急いでいる」などの事情があれば拒否できるのかなどを解説します。(ライター・元警官/鷹橋公宣)
●「そこの自転車、ちょっと止まって!」は職務質問のひとつ
そもそも、用事があって走行中の自転車を止めるという行為自体に「警察だからといって横暴ではないのか?」と疑念を感じている方も少なくないでしょう。
しかし、警察官による「自転車止まって!」には、法的な根拠が存在しています。
警察官には、異常な挙動や周囲の事情から合理的に判断して「何らかの犯罪に関与しているのではないか?」という疑いがある者を停止させ、質問することが可能です。警察官職務執行法(警職法)2条1項に定められている規定で、一般的には「職務質問」と呼ばれています。
「そこの自転車、ちょっと止まって!」と声をかけて停止させる行為は、この職務質問の態様のひとつだと考えてください。
●職務質問は拒否できるが…
職務質問は、たとえば事件現場や付近をうろついていたり、街頭で警察官の姿を見かけただけでその場から離れようとしたりといった不審者を対象におこなう警察活動です。
あくまでも任意の警察活動なので、停止に応じず拒否しても、それ自体が違法行為になるといった心配はありません。
ただし、声をかけた警察官としては、職務質問を拒否されると、かえって「何かやましいことでもあるのだろうか?」という疑念を持つこともあります。結果として素直に職務質問に応じた方が早めに解放されることがあることは事実です。
●なぜ警察官は「防犯登録」の番号を調べるのか
自転車の防犯登録は、自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律によって、すべての利用者に防犯登録が義務付けられています。
所有者の住所・氏名・電話番号といったデータと紐付けられており、都道府県の防犯協会を窓口に登録がおこなわれ、警察がデータを保管しています。走行中の自転車は原則として、誰の所有物なのかがはっきりしていることになります。
つまり、警察官による防犯登録の番号チェックは「自転車を盗んだのではないか?」あるいは「どこかに放置されていた自転車を勝手に使っていないか?」を確認しているのです。
●警察が自転車盗を取り締まる「本当の目的」
たとえ自転車を盗まれて困っている人がいて、警察が盗まれた自転車かどうかを調べているのだとしても、早く帰宅したいときや気分よく遊んだ帰りに乗っている自転車の防犯登録番号をチェックされることは、自分の所有物であることをわかっている本人としては時間をとられて煩わしいと感じてしまうのも無理からぬところです。
ましてや、「自転車を盗んだのではないか?」などと疑いの目で見られることには、「心外だ」「なぜ自分が疑われなければならないのか」と腹立たしさを感じる人も少なくないでしょう。
警視庁が公開している「東京の犯罪(令和5年版)」によると、警視庁管内で認知された窃盗事件は5万9888件で、このうち約45%の2万7174件が自転車盗でした。この数値は東京都内におけるものですが、件数こそ違えど他の道府県でも同じ状況がみられます。
自転車盗は「ゲートウェイ犯罪」に位置付けられている犯罪です。ゲートウェイとは和訳すると入口や玄関といった意味で、ゲートウェイ犯罪とは「より悪質な犯罪につながるおそれのある軽微な犯罪」を意味しています。
罪を犯すことに抵抗がなくなり、強盗などの凶悪犯罪や覚せい剤などの違法薬物に手を染めてしまう人を減らすためには、自転車盗を含めたゲートウェイ犯罪の抑止が大切とされています。
「盗まれた自転車を持ち主に返してあげたい」という目的があるのはもちろんですが、その裏には「自転車盗の抑止によってさらに重大な犯罪の発生を抑止する」というねらいがあることを知っておいて欲しいです。
●職質の練習台という実情もあるが…「走行ルール順守」は自分のため
大きな目的があるとはいえ、一方で、自転車利用者に対する職務質問が「若手警察官の練習台」と化している状況も否定できません。
自転車利用者の多くは中学生や高校生といった少年であり、経験が浅い若手警察官にとっても気後れすることなく職務質問を試みることができる格好のターゲットになっている実情があります。
本来、職務質問は警職法に定められている要件を満たす場合にのみ許されるものです。しかし、格別の不審点がなくても「自転車で走っている」というだけで停止を求めているようにみえるケースもあります。
無用な負担を避けるために大切なのは基本ルールの徹底です。
夜間や薄暗い時間帯にはライトを点灯する、並走や二人乗りをしない、左側通行を守る、スマホを操作しながらの「ながら運転」をしないなどが挙げられるでしょう。ルールに反する行為があれば、それだけでも警察官が声をかけて停止を求める理由になりえます。
政府は2024年3月5日、自転車の交通違反取締りにおける反則金の導入を盛り込んだ道路交通法の改正案を閣議決定しました。今後、ルール違反の自転車に対する取り締まりは強化されるでしょう。
職務質問を受けないためというだけでなく、自分自身の安全を守るためにも、法令に従った利用を心がけてください。