町役場の職員同士が結婚した場合、どちらかに退職を求める――。福井県池田町にそんな内規があるとして物議を呼んでいます。
報道によると、3月13日の町議会で、議員がこの内規の撤廃を求める質問をしたところ、町は継続する意思を示したそうです。
朝日新聞デジタル(3月14日付)などによると、町側は「人事配置に制約が生まれる」「夫婦が上司部下の関係になった時に監督行為が適切におこなわれるか疑義が生じる」「個人情報保護や守秘義務に基づくリスク管理が甘くなるおそれがある」として、内規を必要だとしたということです。
これまで3人が退職して、いずれも女性職員が辞めたとされています。今回の福井県池田町のような内規は法的に問題ないのでしょうか。労働問題にくわしい市橋耕太弁護士に聞きました。
●「人格的利益」侵害の可能性
——福井県池田町の内規に違法性はないのでしょうか。
基本的に、労働者の自由な意思を尊重する態様でおこなわれている限り、退職勧奨は自由にできると解されています。しかし、実際は、労働者の自由な意思の形成を妨げていたり、人格的利益を侵害していたりして「違法」と評価される場合も少なくありません。
「婚姻の自由」は法的に尊重される人格的利益ですので、職場で結婚したことを理由に退職勧奨を受けるということであれば、人格的利益を侵害されたと評価することが可能です。
また、婚姻したという社会的身分に基づいて他の職員が受けない退職勧奨を受けることになるので、平等権(憲法14条1項)を侵害するものであるという評価もできます。
さらに、内規にまでなっており、実際にこれまでの退職勧奨において、いずれも退職に至っているということであれば、実際には退職する、しないを自由に選択できる状況になかった可能性がありますので、この点からも違法性が生じえます。
——町の言い分は、退職勧奨の内規の理由として、十分なものなのでしょうか。
夫婦ともに職員であるからといって、その義務や責務が緩和されるわけではありませんから、守秘義務などの問題を挙げる言い分は、法規が守られないことを前提とするもので合理的ではありません。
仮にその点を考慮して町側の人事配置に制約が生じたとしても、すでに述べた退職勧奨の問題点を正当化する理由にはなりません。実際、夫婦や親子ともに同じ役所に勤めているというケースは日本全国に多数存在すると思われます。
●「女性にとって暮らしにくい町」というイメージにつながる
——報道によると、女性職員ばかりが退職したということですが、女性差別にあたらないのでしょうか。
たとえば、池田町において、女性職員のキャリア形成が男性職員に比べて困難な状況があるとか、過去の状況を踏まえ女性職員が退職するよう誘導されたなど、女性職員が退職することを選択せざるをえない事情があれば、退職勧奨の違法性はさらに強度なものと評価されると思います。
——池田町は今後、この内規についてどのように対応すべきでしょうか。また、すでに退職した人は職場への復帰を求めることは可能でしょうか。
少なくとも内規として整備しておく合理性は考えがたいので、ただちに撤廃すべきです。婚姻することで不利益を受ける町、特に女性にとって暮らしにくい町などとイメージダウンにもつながってしまうでしょう。
すでに退職をしてしまった方については、たとえば、退職せざるをえないと思い込まされたなどとして、退職の意思表示に瑕疵があったと主張する(正確には、辞職承認処分の取消しを求める)ことで、復帰できる可能性も考えられます。