北九州市小倉北区の飲食店街「鳥町食道街」近くで、1月3日午後に発生した火災は約13時間後の4日午前4時ごろ、ほぼ消し止められたと報じられている。被災店舗は約35棟で、およそ2900平方メートルが焼けたという。
共同通信によれば、「飲食店で火災が起きた」との119番があり、その後周辺に燃え広がった」といい、けが人は確認されていないという。火元はまだ特定されていないが、火元とみられる飲食店の関係者が「鍋から火が出た」と話しているとの報道もあった。
昨日の鳥町商店街(北九州市小倉北区)の火災は、周囲を含めて35店舗。約2900㎡を焼損。ケガ人はいないとのこと。 古くから市民に親しまれてきた飲食街。本当に残念。す。二次被害防止の対策、復旧と被災事業者への支援が強く求められる。
— 田村貴昭 (@TAMURATAKAAKI) January 4, 2024
本日、北九州市の許可を得て、市議会議員とともに現場調査。 pic.twitter.com/ukfgTaasVa
現時点で詳細は不明だが、過去には同様に飲食店で起きた火事により甚大な被害を招いた「糸魚川大規模火災」がある。2016年12月に起きたこの火災は、ラーメン店の店主が中華鍋をガスコンロの火にかけたまま店を離れたところ、火が壁などに燃えうつり、店を含む147棟に被害が及んだ。業務上失火の罪に問われた火元のラーメン店店主には禁錮3年、執行猶予5年の判決(求刑、禁錮3年)が下されている。
現時点で詳細は不明だが、飲食店が大規模火災を引き起こした場合、どのような法的責任を問われることになるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●どのような法的責任を問われる?
刑事(業務上失火罪)、民事ともに責任が問われる可能性があります。
たとえば糸魚川大規模火災では、業務上失火罪の法定刑(3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金)の上限となる禁錮3年、執行猶予5年の判決となりました。失火で死傷者が出た場合を除き、失火単独での求刑としては過去に例のない重い判決でした。
出火の原因が、ラーメン店の店主が中華鍋をガスコンロの火にかけたまま店舗近くの自宅に戻って休憩していたという、火器を取り扱う事業者としての基本的かつ初歩的な注意すら欠いていた極めて重大な過失があったこと。また、失火による被害が、焼損147棟を含む4万平方メートルに及び、日本国内の単一出火の延焼による火災の規模としては過去20年間で最大であったという被害の大きさが影響したものと考えられます。
●「重大な過失」があったかどうか…過去の裁判例は?
次に民事での法的責任について検討します。今回の火災での詳細はわかりませんが、火元となった店主に重大な過失があったかどうかによります。
失火による延焼被害は、木造家屋が多く、住宅が密集する日本の住宅事情を考慮した失火の責任に関する法律により、火元に重大な過失がなければ、損害賠償責任を問えないことになっています。
「重大な過失」とは、注意義務を著しく怠った場合、すなわち、わずかな注意を払えば被害の発生を防げたのに、その注意すら怠った場合を言います。例えば、寝たばこ、ガスコンロやストーブの火の放置、ガソリン等の揮発性の高い物質の近くでの火の取り扱いなどがこれにあたります。
過去に「重大な過失」が認められた事例としては、
(1)天ぷら油を入れた鍋を台所のガスコンロにかけて加熱したまま、2階物干場で洗濯物を干していた間に天ぷら油の温度が上昇して火が油に引火して出火した事例(東京地裁昭和51年4月15日判決)、
(2)鋳物工場において、周囲に可燃物があるにもかかわらず、高温の鋳型を放置して作業場所を離れたところ、段ボールが鋳型に接触して引火した事例(東京地裁平成27年1月15日判決)
などがあります。
もっとも、被害金額が大きい場合には、個人で全ての責任を負いきれるものではありません。店主が破産をしてしまえばなおさらです。
店主が施設賠償責任保険に加入していれば、それによる補償は受けられます。しかし、支払限度額が定められているのが普通ですから、到底全額は賄えません。
やはり、最後は被害者が自助努力で加入する火災保険で損害の補償を受けるしかないように思います。