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発達障害の可能性がある同級生から我が子が殴られ、蹴られた…どうすれば? 学校トラブルに詳しい弁護士に聞く
写真はイメージです(buritora / PIXTA)

発達障害の可能性がある同級生から我が子が殴られ、蹴られた…どうすれば? 学校トラブルに詳しい弁護士に聞く

保護者の方は、自分の子どもと同じクラスに、発達障害の可能性がある子どもがいると思ったことはありませんか?

ここ10年ぐらいでよく耳にするようになった発達障害。2022年の文部科学省の調査によると、普通クラスに通っている子どものうち、発達障害の可能性がある子どもは、小学生で10.4%いるという統計が出ています。1年生と2年生の低学年だけ見ると、12%という高い割合になっています。約8人に1人が発達障害の可能性があるということになり、1クラスに4、5人いる計算になります。

一方で10年前の2013年のデータを見ると、小学生の平均が7.7%、1年生は9.8%、2年生は8.2%という結果に。この10年間で発達障害に対する認知度が向上したのと同時に、発達障害の可能性がある子どもの数が増えていることがわかります。

<参考データ>
「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」P8表6、P27表6(令和4年12月13日文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)

発達障害の子どもを持つご家庭の大変さがある一方で、暴力行為を受けてしまった被害者の保護やケアもしなければならず、発達障害は難しい問題となっています。

今回は、教育現場と子どもの権利に詳しい高島惇弁護士に、子どもが暴力行為を受けてしまった場合にどう対応すればよいのか聞きました。(ライター・小日向佑月)

画像タイトル 高島惇弁護士

●特別支援学級に移したり、転校させたりできるか

発達障害の可能性がある同級生から暴力を振るわれていたら、被害児童やその保護者は「クラスを替えてほしい」、もしくは「転校してほしい」と思うのではないでしょうか。では、実際に、発達障害がある児童を特別支援学級に移したり、転校してもらったりすることは可能なのでしょうか。

高島弁護士に、発達障害の可能性がある同級生と同じクラスにならないための手段があるのか聞きました。

「2016年に障害者差別解消法が施行されて、発達特性(発達障害と同義)のある児童・生徒に対して、学校は合理的な配慮をしなければならないとされました。そのため発達特性があるからとの一事を理由として特別支援学級への移動を求めることは、学校の対応として問題があると見られてしまいます。基本的には通常学級の中で教育をして、周囲の理解を促しつつ児童の健全な育成を図っていくべきなのです」

発達障害の可能性があるからといって、特別支援学級に行くことにはならないそうです。では、暴力行為が原因で被害者が登校拒否をするようになった場合に、救済の方法はないのでしょうか。

「これは発達特性のある子に限った話ではありませんが、登校拒否になった場合はいろんなパターンがあります。ひとつは加害者に対して別室指導を促していくということです。加害者に対して出席停止措置を講じられればよいのですが、現在の教育委員会の運用上、出席停止措置が講じられることはほとんどありません。

たとえば、学校内で接しないように加害者を別室指導にしたり、動線を設けることで偶然に接触する機会をできる限り減らすといった対応は考えられます。それでも被害児童として不満を持たれることは多いですが、少しでも登校できるよう学校環境を整えるのが重要な姿勢になります」

転校についても公立学校では指示できませんが、私立校の場合は公立とは若干対応が異なるそうです。

「公立とは異なり私立の小学校や中学校の場合は、強制力をもって学外へ排除する手段が法的に認められています。暴力行為がひどい場合は、加害者に対する自主退学勧告など、学校側が積極的に動くこともあります」

●保護者が理解していない場合はどうしたらいいか

加害者の保護者が、自分の子どもが発達障害だと理解していない場合や、発達障害の可能性があると知りながら放置しているケースもあります。

一方で、被害者の保護者としては、加害者の保護者と直接話したいところですが、最近は個人情報保護の観点から連絡網が配布されず電話連絡を取ることが困難になっています。

このような場合、被害者側の保護者はどのような対応をとったらよいのでしょうか。

「まずは担任の先生に相談をするのが一番です。ただし先生の中にも能力や経験に差があり、情報が適切に学校内部で共有されない場合があります。担任の先生に話しても対応してもらえない場合は、教頭先生や校長先生などの管理職に話したり、養護教諭やスクールカウンセラーに相談したりしましょう。それでもどうにもならない場合は、公立であれば教育委員会に相談することになります。

そのうえで、発達特性の症状があり医学的なケアが必要と判断されれば、専門の医療機関を受診したり、カウンセリングを受けたりするように学校から加害児童の保護者に促すのが基本的な姿勢になっています」

学校に相談をしても仕方ないと放置せず、まずは担任の先生に状況を伝えてみると良さそうです。

●悪質な加害行為があった場合、刑事事件化や民事裁判もできるのか?

発達障害の有無に限らず、子どもが学校で暴力を受けたとしても、加害者側が被害者側に謝罪をして終わるケースが一般的です。大人なら警察に被害届を出すと思いますが、子どもの場合は難しいのでしょうか。

これについて高島弁護士によると、学校は教育の場という特性上、子ども同士で話し合いを行い人格形成の発展を促すのが基本となるため、特に公立学校では謝罪で終わるケースがほとんどだと言います。

一方で、数は多くないものの、謝罪では済まされないケースもあるそうです。

14歳未満の児童・生徒は刑事責任を負わないので、仮に暴力行為を警察に通告しても、せいぜい児童相談所に連絡がいって指導のみで終了するケースが多いです。

他方、民事の賠償責任については、事理弁識能力が認められる子どもの場合は年齢に関係なく直接法的責任を負いますし、仮に事理弁識能力がない場合にはその保護者が監督者責任を負うのが原則です。したがって、たとえば暴力行為やいじめが悪質であって外傷や精神的疾患を発症した場合には、児童本人又はその保護者に対し損害賠償請求を行うケースがあります。

また、事件の現場に先生がいて学校が事実を知りながら放置して被害が拡大した場合は、学校の安全配慮義務違反になりえます。さらに、基本的には認知した時点で教師から管理職に報告して、悪質であれば教育委員会にも報告を上げることになっています。もしそういった報告を怠った場合は、管理職ともども懲戒処分の対象になることもあります」

子ども同士の事件では、どのような場合に弁護士に依頼するのかについても聞きました。

「ケースバイケースですが、骨折など重大な場合は当然処罰感情が強くなり、法的責任を追及したいという話になると思います。

また学校側が改善を図ってくれない状況で、被害者が長期の不登校に陥ってしまった場合は、こちらが苦しんでいる思いを理解してほしくて法的措置を講じる保護者もいます。公立学校は法的に加害者を無理やり転校させることができないので、同じ学校に通いたくないなら被害者が転校しなくてはなりません。そういった点からも許せないという気持ちが出てくると思います」

刑事事件化や民事裁判をおこす際には、被害者側で証拠を準備しておく必要がありそうですが、どのような証拠があると有利に働くのでしょうか。

「損害に関するものですと、外傷に関する写真であったり、受傷直後に医療機関を受診して診断書を取得したりするのが重要かと思います。いじめで身体的な外傷がなくても精神的疾患をわずらうような場合は、小児の精神科や心療内科を受診して、診断を取得したりカウンセリングを受けたりするのも重要かもしれません」

被害者の保護者としては、受傷直後の証拠を残しておいて、被害が重大な場合には、法的措置を講じるという手段を視野にいれても良いかもしれません。

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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