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厳島神社の宮島で「訪問税」10月からスタート、オーバーツーリズム抑止の切り札か…1人「100円」フェリー代に上乗せ
宮島といえば「厳島神社」だ(emi suga / PIXTA)

厳島神社の宮島で「訪問税」10月からスタート、オーバーツーリズム抑止の切り札か…1人「100円」フェリー代に上乗せ

厳島神社のある広島県・宮島(廿日市市・はつかいちし)を訪れる観光客を対象とした「宮島訪問税」の徴収が10月1日からスタートする。宮島へ渡るフェリー料金に1人100円が上乗せされる。こうした観光税は他の地域にも導入されているが、宮島訪問税をどのようにとらえればいいのだろうか。旅行業に詳しい浅井耀介弁護士に解説してもらった。

●オーバーツーリズム対策としての観光税

宮島訪問税のような、いわゆる観光税の徴収は、昨今、全国の観光地で問題となっている「オーバーツーリズム」(=観光客の増加に伴う行政需要の発生・増幅)への対応策として注目されています。

というのも、まず、(1)オーバーツーリズムの発生している観光地では、トラブル回避のため、渋滞対策の実施やゴミ箱、公衆トイレの設置・維持管理などが必要となるわけですが、その財源として観光税の税収をあてることができるからです。

また、(2)高額な観光税を徴収すれば、一定数の旅行者が納税を嫌って、その地を訪れることを控えることが見込まれて、結果的に過度な訪問者数の増加を抑制することにもつながるからです。

今回の宮島訪問税は、1人100円という少額な税の徴収にとどまっていることから、(2)よりも(1)の側面が強いといえるでしょう。廿日市市もホームページで、訪問税導入の趣旨について「多くの観光客などの来訪によって発生・増幅する行政需要(財政需要)に対応するため」と公表しています。

●宮島訪問税の法的根拠は?

日本国憲法は、あらたに租税を課す場合、法律の定める条件によることを必要とする「租税法律主義」をとっています。そして、それぞれの地方公共団体においては、地方税法により、条例による新たな税目の新設が認められています。

このような地方独自の税目を「法定外税」と言います。今回の宮島訪問税はまさにこの「法定外税」に該当するわけです。

●観光税の導入に伴うハードル

それでは、現在オーバーツーリズムが問題となっている観光地においても 「法定外税」としての観光税の導入をどんどんとすればいいのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、観光税新設の条例を制定するためには、主に2つのハードルが存在します。

(ⅰ)徴収漏れによる不公平感を生みやすい

税である以上、納税義務者から等しく税を徴収できないと不公平感が生まれてしまいます。したがって、条例の制定にあたっては、徴収漏れが生じないような徴収方法の検討が必須となるわけですが、バス、新幹線、飛行機など、入域手段が多岐に渡る広域な観光地において、全員から税を確実に徴収するのは現実的に困難といえます。

(ⅱ)応益原則との関係

税法においては、租税のことを、納税者が国や地方公共団体から受けている利益の対価としてとらえる「応益原則」という考え方が存在します。この考え方からすると、観光税の税収により賄われる行政サービスの利益を受けているのは住民であるから、それを旅行者に負担させるべきではないという意見が出てきてしまいます。

●現在の主な「法定外税」としての観光税

このような問題点をクリアするため、東京、大阪、京都などの主要な観光地においては現在、「宿泊税」として宿泊旅行者から観光税を徴収するといった方法が採用されています。

宿泊税であれば、ホテル料金に税額を上乗せする形で、確実に納税義務者全員から税を徴収できますから、(ⅰ)の問題点はクリアできます。また、(ⅱ)の応益原則との関係においても、「宿泊旅行者であれば数日間その地に滞在するのであり、日帰り旅行者に比べればその地で行政サービスを受けるのであるから、一定の税負担をさせることも合理的である」という説明や、「宿泊税はホテルのサービスへの対価である」といった説明が可能です。

●宮島訪問税の画期性

この点、日帰り観光客の多い宮島では、「宿泊税」による十分な税収が見込めなかったため、他の税目で(ⅰ)と(ⅱ)の問題点をクリアする必要がありました。

そこで、まず注目されたのが、入域手段がほぼフェリーに限られるという宮島の地形上の特色です。このような特色がある以上、ホテル料金に税額を上乗せする「宿泊税」でなくとも、フェリー料金に税額を上乗せする「訪問税」という形で漏れなく税を徴収することができ、(ⅰ)の問題点をクリアできます。

また、(ⅱ)の問題点に対しては、「旅行者数の増加により行政サービスが増大するのであるから、それに伴う支出についてはその原因である旅行者に負担させるべきだ」という「原因者課税」の考え方をとることで、そこに一定の合理性をもたせることができました。

「原因者課税」の考え方をとった結果、行政サービスの増大の原因に該当しない宮島町の住民を納税義務者から除外することができ、条例制定のために必須である地域住民の理解も得られやすくなりました。

●今後の観光税について

私は、この「原因者課税」という考え方が、今後、新たな観光税の新設の一助となると見ています。入域手段が限られ、確実に来訪者から税を徴収できる「関所」のようなものが設けられる観光地であれば、「原因者課税」の考え方に基づいた新たな観光税の導入に積極的になってよいのではないでしょうか。

たとえば、最近では、富士山の登山客の増加に伴うオーバーツーリズムの発生が問題となっていますので、その対策を講じるための財源確保の手段として、宮島訪問税にならい、「富士山訪問税」の導入の議論を前に進めてもいいのではないかと思います。

プロフィール

浅井 耀介
浅井 耀介(あさい ようすけ)弁護士 レイ法律事務所
アンダーソン・毛利・友常法律事務所退所後、レイ法律事務所に入所。一部上場企業や大手金融機関等の顧問、投資法人やファンドに関する業務、大規模なM&Aなど企業法務を幅広く経験。現在は芸能案件や学校問題、刑事事件を主に扱い、旅行業にも関心が高い。

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