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鉄製チェーンで縛られて暴行、中1男子がいじめ被害 悪質な傷害「刑事事件にすべき」の声 弁護士の見方は
画像はイメージです(EKAKI / PIXTA)

鉄製チェーンで縛られて暴行、中1男子がいじめ被害 悪質な傷害「刑事事件にすべき」の声 弁護士の見方は

福岡市内の私立中学校で、1年生の男子生徒が上級生からチェーンで縛られて暴行を受ける事件が起きた。

FBS福岡放送などの報道によれば、9月12日、男子生徒は「数十分間にわたり鉄製のチェーンで縛られ、顔を平手打ちされるなどの暴行を受けた」といい、「手足などにケガをし、その後不登校」になっている。また男子生徒側は、福岡県警に被害届を提出したと学校に伝えた模様だ。

鎖で縛って暴行を加えるという行為について、ネットでは「いじめではなくて、刑事事件では」との声が多数投稿されている。フランスで9月半ば、いじめ加害者の14歳の少年が、授業中に逮捕されるという厳しい対応があったことを例にあげ、日本は手ぬるいとの批判もあった。

いじめ問題に詳しい弁護士はこの事件をどうみているのか。生徒間のいじめが実際に刑事事件となる可能性はあるのか。高島惇弁護士に聞いた。

●刑事事件になる可能性は?

——報道によれば、男子生徒はチェーンで縛り付けられ、顔に全治2週間ほどのケガを負ったそうです。全治2週間のケガについては、刑事事件化する可能性はあるのでしょうか

全治2週間と決して軽微ではなく、チェーンで縛り付けるなどその行為態様もかなり悪質である事実を考慮すると、警察が傷害罪として捜査する可能性は十分あります。

実際、本件に関するニュースを拝見する限り、警察がすでに捜査を開始しているとのことです。逮捕されるかどうかはともかく、少なくとも在宅捜査の形で加害生徒らに対し今後事情聴取などが行われたうえで、最終的に家庭裁判所へ送致されると考えられます。

●悪質な傷害行為は「学校内であっても捜査機関が動く傾向」

——ネットでは「いじめではなく、刑事事件なのでは」との声も多数ありました

昨今におけるいじめへの厳罰化という世論の意見もあって、悪質な傷害行為であれば学校内であっても捜査機関が動く傾向は見受けられます。

最近では、令和4年(2022年)11月頃に滋賀県の中学校校内で同級生を殴って鼻や下顎の骨を折る大けがをさせたとして、15歳の少年が逮捕されたケースが存在します。

もっとも、少年の場合は原則として少年審判として処理される関係で、最終的には少年院送致や保護観察といった処分で終わるケースが多く、懲役刑などの刑事罰が下されることは通常ないものと考えます。

そのうえで、私立の中学校であれば退学処分を含む懲戒処分を講じる可能性もあります。社会的に報道されており捜査も開始している事実は、学校の懲戒処分を正当化する一つの考慮事由となるでしょう。

しばしば「いじめではなく、犯罪と呼ぶべきだ」といった世間の声を見かけることがあります。とりわけ、本件のように悪質性の高い傷害行為を行っている場合には、世間の憤る声も十分に理解できるところではあります。

その一方で、いじめは、いじめ防止対策推進法を根拠として主に児童生徒への教育的な観点から定義づけられたものであって、刑事処罰を内容とする刑法などの法律とは目的が大きく異なるため、両概念を混同するのはかえって議論の方向性を見誤るおそれがあります。

結局、本質的に問題視すべきは、いじめが生じた際に、学校や被害生徒らが講じ得る法的措置に限界がある点です。学校における調査権限の拡大や出席停止措置の柔軟な運用など、いじめ防止対策推進法を中心とした法制度の改善を期待したいところではあります。

●「いじめが警察沙汰になるのを嫌がる学校・教育関係者は多い」

——いじめ問題を取り扱う中で、警察に相談する事例はどのくらいあるのでしょうか。

警察に相談することは比較的ありますが、いじめの種類によります。

暴行罪や器物損壊罪にあたるいじめが起きた場合、保護者の意向で警察に被害届を出したり相談したりすることはありますが、警察は「学校内部でのトラブル」として介入しようとしないのが実情です。また、いじめが警察沙汰になるのを嫌がる学校・教育関係者も多く、学校は警察との連携については消極的でした。

ただし、文部科学省は今年(2023年)2月7日、全国の教育委員会に対し、犯罪行為にあたるいじめはただちに警察に相談・通報をするよう求める通知を出しました。私立と公立ではまた事情が異なりますが、少なくとも公立学校はこの通知を受けてだいぶ意識を変えると思います。

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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