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ジャニーズ性加害、元ジュニア平本淳也さんの35年 「夢とは犠牲を伴うもの、それでいいんですか?」
「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表の平本淳也さん(2023年9月7日、弁護士ドットコムニュース)

ジャニーズ性加害、元ジュニア平本淳也さんの35年 「夢とは犠牲を伴うもの、それでいいんですか?」

ジャニーズ事務所は9月7日、創業者の故・ジャニー喜多川氏による性加害の事実を認め、藤島ジュリー景子氏は引責辞任するとともに、被害者に対して謝罪した。今年(2023年)、英公共放送BBCの報道によって火がついたが、そもそも日本でも1960年代から雑誌記事や書籍によって追及されていた問題だった。

〈「夢」とは犠牲を伴うもの、そして利用されるもの……これがスターをめざしてジャニーズでジュニアとして五年間見聞きし体験した結果の、一つの答えである〉

現在、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表として奔走する、元ジャニーズJr.の平本淳也さんが自著『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社)でそう書いたのは、1996年のことだった。

平本さんは「『ジャニーさんが亡くなってから告発するなんて』と、批判されることもあるんですが、僕としては、それだけは言われたくないんですよね。だって、北公次さんが1988年に本で告白して。それ以後、僕も35年近く、ずっと言ってきたわけですから」と話す。

今年に入って、平本さんたちに追い風は吹いているかに見えるが、「この先、相当な落とし穴が待っているんじゃないか、大どんでん返しがあるんじゃないか」と、不安にかられることもあるという。

「夢とは犠牲を伴うもの、それでいいんですか?」。平本さんがこの30年余り、訴えてきたことは変わらない。ジャニーズJr.時代のこと、そして激動の2023年について改めて話を聞いた。

●抱きしめながら「ユー、もうすぐデビューだね」

ジャニーズ事務所 ジャニーズ事務所

平本さんがジャニーズ事務所に入所したのは13歳の時、1980年のことだった。ジャニーズ事務所に履歴書と写真を送ると、間もなくジャニー喜多川氏から電話が入り、とんとん拍子で決まったという。レッスン初日に合宿所へ誘われ、2回目以降は、身体を触られるようになり、行為は徐々にエスカレートしていった。

〈抱きしめながら「ユー、もうすぐデビューだね」と発した言葉と一緒に少し荒い鼻息が頬を撫でる〉(『ジャニーズのすべて』)

〈私はここまでの2年間頑張ってやってきたのだ、そして報われる日がやっと来たのだと心に言い聞かせ、この状況を良い方に考えた〉(同)

〈「新しいグループにはユーがリーダーで頑張るんだよ」「来年にはもうユーは大スターだよ」とよだれがでるほど甘い夢のような話だった〉(同)

16歳の誕生日を迎える2カ月くらい前まで、被害を受けたという。

裏側では性加害が横行していたが、「実際にファンの人たちの前に立つと、出る側も感動するんですよ。すげーなーと」。バックダンサーのほか映画やドラマ、テレビ番組にも出演し、きらびやかな表の世界も味わったが、18歳で退所した。

「物心ついた時から親の喧嘩を見せられて、親は離婚して、捨てられる経験もしてきた。でも、自分史上、このこと(性被害)以上の事件はないですよね。それはこの年齢になっても変わりません」(平本さん)

●自著を出版も「自分の力のなさをすごく感じた」

平本さんが退所して3年後の1988年、元フォーリーブス北公次さんが、性被害について赤裸々に綴った著書『光GENJIへ』(データハウス)を出版した。これが平本さんにとって大きな転機となる。

平本淳也さん(2023年8月、弁護士ドットコムニュース) 平本淳也さん(2023年8月、弁護士ドットコムニュース)

「当時、本を読んで、これはすごいやって。僕たちの時代は、(性被害を)我慢しないとデビューできないのが既定路線になっていたけれど、それは言ってはいけないこと、墓場まで持っていかなければいけない最大の秘密だった。それをスーパースターの北さんが言っている。これを公にしていいんだ、と。それで北さんに会いに行って。それが全ての始まりでした」

同じような経験をした元タレントたちが北さんに次々に連絡をとり、北さんも後輩たちのために立ち上がり、その内の何人かと“新・光GENJI”を結成。平本さんもメンバーとなり、一時はバンド活動をしたこともあった。その頃、平本さんは北さんたちとビデオカメラの前で、被害を証言している。

このビデオの一部は今年8月、作家・本橋信宏さんの新刊『僕とジャニーズ』(イースト・プレス)発売記念のトークイベントで上映され、来場者たちはその迫力、被害の詳細に言葉を失っている様子だった。

トークイベントでビデオを放送。右側が『僕とジャニーズ』筆者の作家・本橋信宏さん(2023年8月、東京都内) トークイベントでビデオを放送。右側が『僕とジャニーズ』筆者の作家・本橋信宏さん(2023年8月、東京都内)

平本さんは当時を振り返り、「あれから35年、僕は“誹謗中傷の世界”に入って。そして今に至ります。北公次に引き摺り込まれたというか、僕の意志だからね」と語る。

“新・光GENJI”は解散するが、その後も平本さんはライター、作家として『ジャニーズのすべて 少年愛の館』など複数の本を出版していく。

『ジャニーズのすべて』(平本淳也・鹿砦社) 『ジャニーズのすべて』(平本淳也・鹿砦社)

当時は性加害の“告発”ではなく、“暴露”とされた時代。平本さんには多くの批判も集まった。また一部の週刊誌は北さんをはじめ、平本さんら元所属タレントたちの声を記事にしてきたが、新聞やテレビでは取り上げられることもなかった。当時はどのように受け止めていたのだろうか。

「30年前には『おじさんが男の子にイタズラする』と言っても、『ふーん』で片付けられていた。誰に何をいっても伝わらない。言い続けるだけでバカにされるし、頭がおかしいと言われてきた。

僕らの話を取り上げてくれる週刊誌や夕刊紙の取り扱いにしても、今のような社会問題としてではなく、噂、スキャンダル的な扱いでしたしね。マスコミはビジネス上の利益があったから、僕たちの声は伝えなかった。単純な話ですよね。ジャニーズのすごさは辞めた後も感じましたね。

自分の力のなさをものすごく感じました。当時は“暴露”と言われたり、殺害予告もされたりもしましたけど、伝えるためには何でもやった。でも、それだけやっても残せたのは都市伝説というか噂話、それが実情だったよね」

過去、平本さんが書いていた書籍や記事の中には、ジャニーズ事務所の入所希望者向けの作品もあり、「かつてはジャニーズを賞賛するような本や記事だって書いていたじゃないか」という声もみられる。これについて、平本さんは「書いたことは事実なので、非難されるのは仕方がない」とした上で、次のように説明する。

「これまで取材や執筆依頼は多くいただいてきましたが、内容は任せて頂けるものの性加害について書くたびに批判されることがあり、媒体にも迷惑が及ぶ事も恐れ、次第に書けなくなり掲載してくれるメディアもなくなりました。

性加害についてストレートに発言しても、なかなか関心を持ってもらえない。押してダメなら引いてみる、ではないですけど、どんなかたちでもジャニーズについて書き続けることで、その事態にも関心を持ってほしいという狙いもありました」

実際に知人から「ジャニーズ事務所に入るためには?」と直接、聞かれることも多く、その度に性加害の実態についても正直に答えてきたという。

「それでも事務所に入りたいとか、入れようとする親は多数いました。言い訳に聞こえるかもしれませんが、実態を知った上で、それでも夢のために飛び込む人を僕が『やめなさい』と、他人の夢や希望に口を出して阻むことはできないと今でも深く悩むところです」

●BBCからの取材依頼、事態は大きく動く

1989年から実態を語ってきた平本さんだったが、事態が大きく動いたのは、今年(2023年)3月に放送された英公共放送BBCの番組『J-POPの捕食者 秘めたるスキャンダル』だった。

平本さんは「BBCという黒船に乗ったら、想像を超える展開になった。外圧はすごいですよ」と笑う。新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前の2019年ごろ、平本さんは企画段階から番組に協力していた。

「知り合いの元ジュニアもたくさん紹介しましたけど、取材を断られることも多かったですよね。撮影が始まった直後にコロナが猛威をふるって、取材クルーが来日できなくて、本当に放送できるのかな? という時もありました。当初は日本で放送するかわからないという話でした」といい、強い期待はしていなかったようだ。

しかし、放送前からネットでは大きな話題となった。カウアン・オカモトさんが4月、記者会見を開くと、NHKをはじめ、新聞やテレビも報じるようになり、噂、疑惑扱いだった事実が、「問題」として扱われるようになったのだ。

カウアン・オカモトさん(2023年4月、弁護士ドットコムニュース) カウアン・オカモトさん(2023年4月、弁護士ドットコムニュース)

「ここまでの反響があるとは思いませんでしたし、この展開は想像もしていませんでしたね。まさかNHKの報道局から僕に取材依頼があるとは思わなかったです。それまで“暴露”と言われてきましたが、ここから僕は“告発の人”になりました。

日本は外圧に弱いから動いたし、マスメディアも他社がみんなやっているから扱っているのかもしれない。でも、それでもいいと思うんです」

●「後悔はしていない」

平本さんが退所後、ジャニーズ事務所は次々に人気グループを生み、テレビや雑誌、広告の世界にどんどん活躍の場を広げて行った。そんな事務所をどう見ていたのか。

「性被害のことは別ですけど、ここまで絶対的な成功をおさめ、ファンも多くついているジャニーズ事務所にいたという誇り。1980年代からイリュージョンを用いた独創的な演出や、メリーさんが考案した“早着替え”とか、ファンを魅了してきたことも事実ですからね。その事務所に在籍したことが誇りであったことは確かです」

平本さんの周りには、今も昔も被害を訴えていた仲間たちがいる。中には警察や弁護士のもとを相談に訪れた人たちもいたが、平本さんによれば、警察や弁護士に相談しても、「話を聞いてもらえなかった」という失望感から、その後は黙らざるを得なかった被害者たちもいるという。

「退所後、僕も警察や弁護士に相談したんですが、門前払いされているんです。何人かの弁護士に相談したけれども、証拠がない、時効だ、と言われた。たしかに法律的にはそうなのかもしれないけど、誰かに相談したいという思いで駆け込んだ先で、そういう対応をされると、どうしたらいいんだろうと。知らない人に物をいうことの怖さを警察や弁護士には知ってほしいなと思っています」

当事者の会で要請書を提出(2023年9月、弁護士ドットコムニュース) 当事者の会で要請書を提出(2023年9月、弁護士ドットコムニュース)

当事者の会は現在、様々な弁護士たちの力を借り、これまでは無理だと思っていた法的請求についても検討を始めている。9月初めには、事務所に対して被害者との対話や補償のための基金設立などを求め要請書を提出した。

「僕らは声をあげ、伝えることができるが、それすらできない被害者は無数にいます。彼らを救うためにはどうすればいいのか。勇気をもって、安心して告白できる、そして被害者、告発してくれた人を救っていただける制度を作っていきたい」

トークイベントで登壇する「当事者の会」メンバーの証言を聞く平本さん(2023年8月、東京都内) トークイベントで登壇する「当事者の会」メンバーの証言を聞く平本さん(2023年8月、東京都内)

ところで、平本さんは自身について「被害にあった」ことは認めているが、「被害者」とは名乗っていないという。

「被害者とは言いたくない、認めたくないという思いは今でもあります。どう説明すればいいのかわからないですけど、自分を被害者と思ったら、生きていけない。自分を守れないんですよ。他人からみると、どうでもいい言葉の使い方かもしれないですけど」

だからこそ、被害を告発している「当事者の会」メンバーに対する誹謗中傷には、強い憤りを感じている。

「お金のためだとか、色々言われています。でも、被害者と名乗ることで、自分をどれだけ卑下し、蔑まなければいけないのか。被害にあったことは自分の責任でもないし、自分が悪いわけでもないのに、気持ちが悪いと言われてしまうかもしれないとか。被害者は常にそう思ってしまう。だから僕は自分が被害者とは言えずにいるんです。

自らを被害者だと告白するのは、どれだけつらく、勇気がいることなのか。当事者の会メンバーたちの勇気をわかってほしいですね」

東山紀之新社長、藤島ジュリー景子社長、故ジャニー喜多川氏 東山紀之新社長、藤島ジュリー景子社長、故ジャニー喜多川氏

「言いたくないことを言う必要はないが、もし話したいことがあるなら何でも言って欲しい」。そんな気持ちで、当事者の会のホームページに掲載した連絡先には、ジャニーズ事務所にいた先輩、後輩たちから毎日、メールが届くという。

ジャニーズ事務所が会見を開いた9月7日以降、参加希望者は増え、9月15日現在で15人程度にのぼる。新メンバーの中には、「Kis-My-Ft2」元メンバーの飯田恭平さんも含まれる。

「僕だって、今はこういう話をして聞いてもらえるけれども、BBC以前は、ひとりでした。ジャニーズ事務所は虚飾だとしても華やかな存在であり、そこに対して孤立無援で声をあげていくのは恐怖でしかなく、カミソリを送られたり、嫌がらせも受け続けてきました。

でも今年ようやく事態が動いて、35年、声をあげてきて、継続は力だったのかな、と。軌跡は残せたのかな。その満足感はあります。戦うという表現はおかしいけど、ここからも先、声を上げられずにいる被害者のためにも先頭に立って進んで行けたら」

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