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宗教2世「母に暴言はくと、石鹸を食べさせられた」辛い日々を漫画にして笑い飛ばす
金子陽介さん(提供)

宗教2世「母に暴言はくと、石鹸を食べさせられた」辛い日々を漫画にして笑い飛ばす

宗教2世としての苦悩を4コマ漫画にして、noteで発表している男性がいる。映像作家の金子陽介さん(36)だ。タイトルは『Rockを聴いてはいけません!』。宗教2世としての過去を振り返り、つらかった日々を笑い飛ばすことが狙いだ。(ライター・渋井哲也)

●「宗教2世について執着している部類だと思った」

子どものころから新興宗教とともに過ごしたことは、自身の世界の狭さや、生きづらさ、自殺願望の理由につながっていると金子さんは振り返る。筆者の取材でも、宗教2世がゆえに、生きづらさを抱え、結果として家出や自殺、罪を犯した人たちがいる。

金子さんの両親が入信した宗教とは違うものの、安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者も宗教2世だった。金子さんは山上容疑者に触れたコラムもつづっている。

4コマ漫画は各回タイトルが付けられている。「宗教ではありません」「友達と遊んではいけません」「子供が死んでもかまいません」「女が決めてはいけません」「お尻で遊んではいけません」など。宗教との関連を想像させるものが並んでいる。

特に「友達と遊んではいけません」のエピソードは多い。4コマ漫画を描く動機は何か。

「もともとは映画の企画書として書いていたんです。なぜ書こうと思ったのかというと、これまでに多くの宗教2世の人たちとSNSとかで会っていたんですが、おそらく、僕は、2世について執着している部類だと思ったんです。客観的に自分を見るほうが自殺しないんじゃないかと思ったんです」

●「笑い飛ばせるようになったのは、大学生になってから」

自分から入信することと、宗教2世であること。一体、何が違うのか。

「両親は社会人になってから宗教に入るわけですよ。自分が正しいと思った道であり、自分が選んだ道です。2世の場合は、宗教が最初の世界。ゼロのところから宗教の世界に順応させていくことになり、染み付いています。だからやめてからも、信じていないのに、お祈りしています。

また、教えにはハルマゲドン(最終戦争)がくることになっていますが、いまだに来るかもしれないと思っています。今の教えでは、『生きているうちにはハルマゲドンはこない』となっているようなんですが、僕が小学生のころは『あと2、3年でやってくる』と言われていましたね」

最近では、カルト宗教の2世に関連する本も出始めている。

「内容は面白いんですが、悲惨な感じもありました。だから、コメディ調で笑い飛ばせるのはいいのではないか。タイトルの『Rockを聴いてはいけません!』というのは、本当に嫌味なんです。なぜなら、『〜してはいけない』ということばかりだったので。それを皮肉ってタイトルにしました。

ただし、ネタにはできるんですが、自殺願望は付きまといました。高校生のときに初めてケータイを持ちましたが、親友に『死にたい』とメールを送り続けました。宗教2世としての話を笑い飛ばせるようになったのは、大学生のころ、1人暮らしをするようになってからですかね」

●「やめる大きな動機は、母親から包丁を向けられたこと」

金子さんが2歳のころ、母親が宗教団体に入信した。そのときに金子さんも同時に入信する。宗教活動をしている自覚が芽生えたのは、小学1年のころだ。

「母がなぜ入信したのかはわかりませんが、子育てに苦労したことで学び始めたんじゃないでしょうか。小学生のころから奉仕活動として、地域の家庭訪問をするようになったんです。子どもを連れていったほうが物腰が柔らかいと思われるためだと思います。

そのとき、冊子を渡すのが僕の役目でした。悪くはないんですが、嫌すぎました。うまいこと言えていないし、受け取ってもらえても、うれしくなかったですね。無理矢理させられていましたから」

金子さんは中学2年になり、自分からその宗教をやめた。

「小学5年のころに集会で壇上にあがりました。聖書の一部を与えられ、自分なりに解釈し、人前で話すことがあったんです。これで人前で話すことが嫌になりました。その後のコミュニケーションの妨げにもなりました。やらされている感覚が強いんです。それに答えが決められている感じですね。親の強い信念を拒絶したのかもしれないです。

もっとも、今ですらその宗教が間違っているのかどうかは完全にはわからない。やめる大きな動機は、母親から包丁を向けられたことです。日曜日の集会に行きたくなくなり、母親に言ったんです。中2病になったのかな(笑)。そのときでした。『今すぐ殺す。お母さんは捕まるけど、あなたは不慮の事故で死ぬことになる。お母さんは楽園にいけないけど、あなたは楽園に行ける』と言われたんです」

なぜ集会に行きたくないと思ったのか。

「奉仕活動は嫌でしたね。また、学校の行事に行けないことが多いんですが、母親となんと言うのかの準備をしていたことは覚えています。体罰もありましたね。お尻を叩くのがメインです。信者のママ友の中で、『布団叩きがいい。しなるから』などの情報共有がされていました。

集会に行きたくないときや集会で寝てしまったときは体罰がありました。石鹸を食べさせられたこともありました。母親に『ババア』と言ったときですが、あれは酷かった。中1のころ、父親も入信したんですが、両親から睨まれている感じがしましたね。徐々に、『他の子と違う』という感覚が積み重なっていったんです」

●「嫌なことがあったときは映画に救われた」

宗教をやめるまで、宗教2世としての生きづらさをどのように解消していたのか。

「親に隠れて映画を観ていました。よく父方の祖父と一緒に行ったんです。中1のときに、持っていたCDをバックに入れて、家出をしたときには祖父が探しに来てくれました。家で禁止している娯楽をやらせてくれました。だから『外』の価値観を知る機会が多かったんです。宗教活動で嫌なことがあったときには映画を観に行くことで救われましたね。

その後、映画を撮りたいと思って、高校3年で初めて撮影をしました。僕の場合、作品に思いをぶつけることで精神を保てていたのかもしれない、東京に来て、毎月のように飲むようになった男性に『映画がなかいと人を殺したかもしれないよね』と言われたことがあるくらいです」

宗教をやめたあとはどんな心境だったのか。

「解放された感じですが、家族とは一緒に住んでいたので、家の中にはずっと『教え』がありました。集会には参加していないものの、お祈りには参加させられていました。一方で、解放されたのに、希死念慮(死にたいという願い)を抱きました。

うつ状態になったりもした。死にたいというよりも、死なないといけない、と思っていたんです。今はかなり薄れましたが、東京に来てから何度か首吊りをしました。

解放されて幸せかと思っても、まだ自分の中に『教え』が残っています。『宗教をやめると堕落する』と言われていましたが、僕も『そっち』側に行ったんだなと。もう染み付いている感じ。かなり根深いです。

ただ、『幸せな今は過去を捏造する』というフレーズがあります。ある映画の中で、登場人物が言った言葉です。過去はしんどかったけど、今幸せなのは大事です。その結果、自殺への感情は薄れています。今日だけを考えて生きています」

金子さんは安倍首相銃撃事件についてのコラムも書いた。山上容疑者との共通点は宗教2世だ。

「僕の場合、山上容疑者ほどひどい環境ではなかったし、両親が入信していた団体は安倍元首相とつながっていないと思います。その意味では関係ないですが、報じられている動機は理解できますよ。もちろん、殺すのはよくないですが、僕たちに考えるきっかけを与える最大限の方法になったとは思います」

●Rockを聴いてはいけません!

https://note.com/jwnisei/

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