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通話録音の告知で「客の暴言が減った」 深刻化するカスハラ、シンポで対策を議論
UAゼンセンの安藤さん(2022年2月3日撮影)

通話録音の告知で「客の暴言が減った」 深刻化するカスハラ、シンポで対策を議論

客からの暴言や暴行など「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について考えるシンポジウムが2月3日にあり、企業の担当者やクレーム問題を扱う弁護士らが意見を交わした。主催は、カスハラ対策の法制化をめざす「日本対応進化研究会」。

流通大手のお客さま担当者は「約40年前に入社したとき、失敗しない限り、お客様に怒られることはなかった。最近はちょっと機嫌が悪いだけで怒鳴られる。『憂さを晴らすハラスメント』が起きている」と現場の苦境を語った。

流通やサービス業の労働組合が多く加盟する「UAゼンセン」が2017年におこなった調査では、約7割の組合員がカスハラ被害を経験しているという。

UAゼンセンの安藤賢太さんは「労働者の被害だけでなく、消費者にとっても問題である。カスハラが起きると、接客を待たされたり、そばで見ていて不快な気持ちになったりする」と指摘。社会的な対応が必要だと訴えた。

●「基準の難しさ」はセクハラ・パワハラもたどった道

東芝クレーマー事件(1999年)など、企業側でクレーム問題を見てきた有賀隆之弁護士は、「現場の立場からすると、この20年くらい状況はあまり変わっていない」。ネックになっているのが「カスハラの基準」だ。

「法律には『原状回復』という考え方がある。クレームが来たら、我々弁護士はどうすれば元に戻るのかという発想で考える。原状回復を超えたら基本的には過剰要求でよい」

しかし、現場の労働者には、相手の要求にどこまで対応すべきか、具体的な線引きがわかりづらい。

その点、法律でカスハラを定義し、社会的な合意を重ねていけば、労働者は毅然とした対応を取りやすくなる。セクハラやパワハラもそうやって、少しずつ基準をつくってきた。

有賀弁護士は「企業としてもカスハラ対策はコストがかかる。腰が重い部分もあるが、コンプライアンスが厳しく求められるので、法律ができれば、コストがかかっても守らなくてはとなる」とルールづくりの重要性を説いた。

●「通話を録音させていただきます」

とはいえ、仮に法律をつくろうとなっても成立には時間がかかる。犯罪心理学者で、カスハラ問題も研究する東洋大学の桐生正幸教授は「対症療法」にも言及した。

具体的には、労働者個人ではストレスを減らすテクニックを身につけること、組織として周囲が支援すること、そしてカスハラを「人災」として、対応トレーニングをしたり、メンタルヘルスに配慮したりすることなどが考えられるという。

企業でも、労使の協議などを経て対応が進んでいるところもある。たとえば、前出の流通大手のお客さま担当者によると、電話受付の前に「サービス向上のために録音する」というメッセージを流すようにしたところ、客からの暴言が減ったという。

カスハラをめぐっては、厚労省が近く、企業向けのマニュアルを公表する予定だ。

日本菓子BB協会の天野泰守さんは「業種業態でクレームの質も違う」として、こうしたマニュアルも活用しつつ、各業界が実態にあわせて対応を進めることが必要と話した。

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