冤罪(えんざい)で何十年も収監され、人生を奪われたら――。米ルイジアナ州で、死刑囚として約30年間収監されていた男性がこのほど釈放された。1983年に起きた強盗殺人事件で有罪となっていたが、無実を証明する新しい証拠が見つかって、裁判所により有罪判決が取り消された。
報道によると、ルイジアナ州法の刑事補償の規程により、このような場合、33万ドル(約3300万円)が補償金として支払われることになるという。もちろん金銭をもらっても、奪われた時間は返ってこないわけだが・・・
日本でも、足利事件や布川事件など、無罪判決となるまで数十年もかかる「冤罪事件」が少なからず発生している。最近は、長らく冤罪だといわれてきた袴田事件について、再審を認める決定が出たのが記憶に新しい。では、無実の罪で収監されてしまった人の補償はどうなっているのか。刑事司法制度にくわしい星野学弁護士に聞いた。
●1日あたり「1000円から1万2500円」
――袴田事件は、まだ無罪判決が出たわけではないが、もし再審で無罪となった場合、補償はどうなるのだろうか。
「冤罪により有罪判決が下されたけれども、後日、再審により無罪であることが認められた場合、当人は補償を受けることができます。具体的には、身柄拘束された日数に応じて、1日あたり1000円から1万2500円の範囲で、国に対して補償を求めることができます(刑事補償法4条1項)」
――1日あたり1000円から1万2500円とは、かなり大きな幅があるが。
「補償額は、拘束期間の長短、精神上の苦痛や身体上の損傷、警察・検察および裁判の各機関の故意・過失の有無をはじめ、その他一切の事情を考慮して決定されます(同条2項)」
――袴田事件の袴田巌さんが無罪になったら、補償額は?
「足利事件や東電OL殺人事件など、最近の冤罪事件では、おおむね日額1万2500円が認められています。袴田事件は、警察による取調べの問題や証拠の捏造などが指摘されています。袴田さんの場合には、48年分で2億円超の補償が認められる可能性が大きいでしょう」
●金銭補償だけでなく、冤罪の検証も重要
――金額だけ見ると、アメリカの事例よりも、かなり高額になりそうだ。
「そうですね。ただ、自由を奪われていた期間からすれば、決して高額とはいえないと思います。
偶然ですが、袴田さんの身柄拘束が始まったのは私が生まれた1966年で、その期間は48年にもなります。仮に、その人生すべての間、身柄を拘束されていたら、どうでしょう。
その補償額として考えると、私は2億円を超える補償を受けても、少ないと感じてしまいます。みなさんは、いかがでしょうか」
――たしかに、人生を奪われた心情を想像すると、2億円でも少ないかもしれない。
「大切なのは、金銭による補償だけではありません。冤罪事件の検証を通じて、二度と冤罪を起こさないようにすることも、国による償いです」
星野弁護士が指摘するように、十分な金銭補償と同時に、冤罪が生じた過程を厳しく検証することが、真の謝罪につながるだろう。